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――…気が付けば私達は、夏目の家の前に居た。
「……本当に、戻ってきたんだな……」と言う田沼の言葉に、私は頷くことしかできなかった。涙が溢れ出る。もう、会うことはできないのだろうか。さっきまでは一緒に居たのに、大好きな皆は居ない。



「ニャンコ先生? 田沼?」



そこに、夏目の声が聞こえた。こんな情けない表情を見られてはたまったもんじゃない為、俯く。ああ、いけない。ここで泣いてしまっては夏目に迷惑がかかる。でも、どうしよう、このままでは……。



「……そこに居るのは、夏野さんか……?」



ああ、ほら、夏目に私の存在がバレてしまった。こっそり逃げようと思っていたのに。すかさず、斑と田沼が「久しいな、夏目」「久しぶり」と夏目に声をかけてくれる。けれど、夏目からは私の泣き顔が見えてしまっているようで、「あ、ああ」と返事をする声が揺れていた。いや、泣いてるのは私だけではない。田沼も泣いている。斑は薄らと目に涙を溜めている。



「ずっと、どこに行ってたんだ? 探してたんだぞ」
「ちと野暮用でな。……少し長くなってしまったが」



斑と話し終えた夏目が、こちらに来るのが分かった。涙を拭いて、夏目を見る。あ、私ってば今目の周りとか鼻とか赤いんじゃ……。



「――…ごめんな」



突然謝られた。何を誤っているのか分からない。……どうしたんだろう。「えっと、何が……?」と控えめに聞くと、「さっき、子狐から聞いたんだ。夏野は、子狐を危険な場所から逃がしてくれたんだろう?」と返事が返ってきた。……あの時だろうか。遠呂智の世界で、戦場に居る子狐に声をかけたことがあった。その時は手を払われてしまったけど。そっか、無事に帰れたんだ。



「それに、最近的場さんが妖を殺さなくなったのは夏野さんが現れてから、って聞いたんだ」
「え?」
「夏野さんは妖の邪を祓う仕事をしてるんだよな。ごめん、俺、酷いことをしてしまった……」



夏目の言葉に、私は唖然とする。どうして、謝るの。夏目は、ずっと苦労してきたんでしょ。だから私という敵を拒絶することによって身を守ってきた。そんなの謝ることじゃないよ。



「……謝らないで……」



かすれた声ではあったけれど、私は夏目にそう言った。そして、小声で「夏目が人を警戒するのも無理ないよ」とフォローする。だって、私も妖を相手にして分かったんだ。妖を見たことがない人達に妖が見えることを言うのは、とても勇気がいることだから。「ずっと、ずっとね、思っていたことがあるの」と、私は勇気を出して言う。夏目は穏やかに「それは何?」と聞いてくれる。



「夏目と、仲良くできたら良いなあ、って」



私の言葉に、夏目を目を丸くして驚く。そんなに驚くことじゃないのに。私は夏目の手を握って「今からでも、遅くないよね?」と聞く。少し強引だっただろうか。でも、私は夏目と仲良くなりたい。控えめに夏目を見ていると、「ああ、勿論!!」夏目が笑ってくれた。つられて、私も笑う。



「……そろそろ手を放せ」



いまだに夏目の手を握っていた私。そんな私の手を田沼が夏目の手から取る。田沼の表情は、どことなく不機嫌だ。下から「……フン、青春というやつだな」と呟く斑の声が聞こえた。




 ***




「――…良かった。皐月は無事に夏目様と仲良くできたのですね」



小さな池を見つめ、そう言ったかぐや。かぐやのいる場所は天界。遠呂智の世界から帰ってきたのだ。隣には太公望とナタが居る。遠呂智が創り上げた世界に行った以来、ナタは普通の人間のような性格になった。それほど、皐月の影響が大きかったのだろう。



「田沼なら、きっと皐月を幸せにしてくれるよね」



皐月達がうつる池を見て、ナタは少し笑う。それを見たかぐやと太公望も、顔を見合って微笑んだ。




 ***




「大体な夏野、お前は他の男と仲良くしすぎだ!! 半兵衛さんといい、ナタさんといい!!」
「えっ、なんでそんな話になるの」
「だって俺は、夏野が好きなんだから!!!」



田沼の言葉に思わず唖然としてしまう。田沼の顔は、スッキリしたような、やっちまったかのような複雑な顔をしていた。直球すぎる言葉に、私は顔を赤くなるのが分かる。近くに居る夏目も斑も驚いてしまっている。顔を赤くしたまま何も言わない私に、田沼は「だから、その……」とどもる。私はそんな田沼が可愛く思いつつも、「ありがとう、嬉しい」と言う。そして、



「私も、田沼のこと好き」



と、自分の本心を伝える。私の言葉を聞き、田沼はこれでもかというほど顔を赤くしながら唖然とする。そんな姿がおかしくて思わず笑うと、田沼はハッとして「わ、笑うな」と力なく言う。



「これからもよろしくね、彼氏さん」



ちょっと悪戯っぽく言ってみる。田沼は「お前な……」と呆れるが、すぐに笑みを浮かべて私の頭を優しくなでた。



「……おや、皐月?」



その時、懐かしい声が聞こえた。吃驚して声のした方を見ると、的場さんがいた。その隣には名取さんと柊。私は「的場さんっ!!」と言って、思いっきり的場さんに抱きつく。的場さんは「おっと」と言いながら私を受け止めてくれた。



「久しぶりですね。怪我は無いですか?」
「全然大丈夫です!!」



ニカッと笑みを浮かべながら答える。すると、的場さんが私達を見渡した。そして、かぐやがいないことに気付き、「よく頑張りましたね」と微笑みながら私の頭を撫でる。私は嬉し恥ずかしくて「えへ」と笑う。



「田沼君も、お疲れ様でした」
「あ、いえ」



的場さん私の頭を撫でつつ、田沼に顔を向けてお礼を言う。すると、名取さんが「この子が的場が言ってた夏野皐月ちゃん?」と私の顔を覗き込んだ。私がそのことに驚いていると、的場さんが「ええ、自慢の弟子です」と嬉しいことをってくれる。私は胸を張って自己紹介をしようと、的場さんから離れて名取さんと柊さんに向き直る。



「的場一門、夏野皐月ですっ!!」



来世でも良い。皆に会いたい。そのときは、世界が平和になっていますように。また皆と一緒に笑い合えますように。次会えるまで、どうか私を忘れないで。私も、皆のこと絶対に忘れない。私のことを守ってくれてありがとう。私は、これからもずっと皆のこと愛してる。



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