30 ボンッ、と音をたててニャンコの姿になった斑。私は、ナタに歩み寄る。両手には拳銃。「……僕と戦る気?」と言うナタからは殺気が出ていて、正直足が震える。勝てる自信なんて無い。それでも、向き合わなきゃいけない。強くなるために、毎日のようにナタと戦ってきた。その度に、毎回私が負けた。……どうか、この戦いで記憶を取り戻しますように。 「的場一門夏野皐月、推して参る」 覚悟を決め、私がそう言った瞬間、ナタが此方に迫ってきた。ナタの拳が私の顔へと振り込んでくる。だが、それを持っている拳銃で防いだ。受け止めたは良いものの、力が強くて手が痛む。 ――バンバンッ!! 空いている方の銃でナタの腹に二発撃つが、二発とも避けられてしまった。流石はナタ。何一つ鈍ってはいない。そんな事を考えているうちに、ナタの蹴りが私の横っ腹に入る。私は「しまったッ……!!」と思いつつも蹴りが入るであろう横っ腹のほうの足を上げ、ガッ、とナタの蹴りを足で止める。これも物凄い痛いのだけれど、今は我慢するしかない。 「へえ」 ナタがそう呟いた瞬間、ナタの空いている方の手が拳を作って私の腹目がけて殴ろうとした。流石にこんな近距離のナタの本気を食らってしまったら内臓が死ぬかもしれない。私は出来る限りスピードを上げて足を上げていない方の横に避ける。だが、それがいけなかったらしい。 ――ドンッ!! 「い゛ッ……!!」 避けている最中に、ナタが一回転をして私の腹に蹴りを入れた。瞬時に腕をクロスして防ごうとしたものの、ナタの方が勢いがあったようで、私はそのまま蹴り飛ばされる。 ッドォォォオン!!!! 体が、後ろの岩壁に勢いよくぶつかった。岩壁に体がめり込み、私の体は重力に従って地面に落ちた。小さな石が頭上から落ちてきて、私の体を少し痛めつける。岩壁に体を打ち付けたせいか、息が上手く出来ない。 「う、ッ……」 体の中から何かがこみ上げてくる。ヤバい、気持ち悪い。口に手をそえる。遠くで甲斐さん達が心配そうに私の名前を叫んでくれた。でも、今の私には、その言葉に返事を返すのは難しい。「ごふッ……!!」血を吐きだしてしまい、手からポタポタと、血が地面に落ちる。 「はあ、ッはあ……」 痛い。痛すぎて泣きそう。こんな痛み、初めてだ。やっぱり、私は弱い。どんなに頑張ったって、小さい頃から戦ってきた皆に追い付けるはずがないんだ。痛みを堪えて、なんとか立ち上がる。ナタは「強くなった」って言ってくれた。でも、所詮は雑魚程度。 「……あれ……、なんで……?」 戸惑ったナタの声が聞こえ、私は顔を上げてナタを見る。思わず「は?」と声を漏らしてしまった。――ナタが、泣いているのだ。 「……おか、しいな……」 唖然としているナタ。それは自分の意志で涙を流しているようには思えない。止めようとしているのが分かるが、何度拭いても涙は止まらない。そんな時、半兵衛さんやかぐや達が来たのだろうか。甲斐さんや卑弥呼達の居る方から、私達を心配する言葉が聞こえる。 「……これは、どういう状況なのですか……?」 「皐月が”見捨てた相手”が”ナタ”だったということだ」 「え……!!?」 頭から流れる血を拭く。これは、ナタの記憶を戻せるチャンスかもしれない。私はそう思い、体を後ろの岩壁で支えながらも立ち上がる。「ナタ、」と声をかけると、ナタは戸惑いながらも私へと視線を向けた。 「ナタ、と一緒にいたこと、忘れたことはなかったよ……ッ……」 そう、いつだって後悔ばかりで、罪悪感ばかりで。ナタを思い出しただけでも胸がはち切れそうなほど嫌で嫌で嫌で。でも、今は違う。ナタ、生きていてくれて良かった。ナタ、無意識でも泣いてくれて嬉しい。一息ついて、私は力なくナタに微笑む。 「また……、一緒に鍛錬とかさ、したいな……」 その時、私の体が崩れ落ちた。 [*前] | [次#] [表紙へ戻る] |