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意識を取り戻すと、体中が痛んだ。ズキズキと全身が痛むのを堪え、ゆっくりと重い瞼を開ける。ぼんやりとした視界は段々と鮮明に見えてきて、私の顔を心配そうに覗き込むかぐやの顔が、そこにはあった。



「良かった……!! 今、斑様を呼んでまいります!!」



私の顔を見るなり、安心した表情でテントらしきこの場所から出て何処かへ行ってしまったかぐや。頭がついていかない。でも、とりあえず上半身を起こす。背中が特に痛む。岩壁に背中を打ったのが原因だろう。……そうだ、ナタはどうしたんだろう。布団の中から出て、立ち上がる。体が痛んでよろつくけれど、なんとかテントから外へ出る。



「あ……、」



出てすぐそこに、馬超さんが驚いた顔で立っていた。こっそり外の様子を伺うだけにしようと思っていたので、馬超さんにバレてしまって戸惑う。馬超さんは私のそんな心境を知らず、「もう立って大丈夫なのか!!?」と焦った表情で心配そうに聞いてくる。本当は安静にしていなきゃいけないだろうから、視線を逸らす。すると、思いっきり「はあ」とため息をつかれてしまった。



「体、まだ痛むだろう?ゆっくり休め」
「はい。あの、ナタh…――、」



そう言いかけて止まった。どこからか騒ぎ声が聞こえるのだ。どうか、したのかな。少し遠くのほうで「お、落ち着いてください!!」「ここで暴れないでよぉー!!」と言う蘭丸さんと小喬の声が聞こえた。他にも「おのれ!! やはり貴様は不義!!」「え、それだけで不義?」と言う兼続さんと鮑三娘さんの声。鮑三娘さんはともかく、他三人は慌てているようだ。
そして、



「うるさいな。いいから皐月を出しなよ」



と言う、なんとも呑気な声をしたナタの声。何故ナタがここに、と思い、馬超さんに顔を向ける。馬超さんは笑みを浮かべ、「お前の友人なのだろう?」と言った。もしかして、ナタも討伐軍に入れてくれたのだろうか。



「皐月……!!」



名前を呼ばれ、そちらの方に顔を向ける。そこには、満面の笑みをしたナタが居た。周りはその笑顔に驚いている。中には、「本当に仲が良かったなんて……」と言う人がいた。その言葉は少し複雑なものだったけれど、ナタが記憶を取り戻してくれたことがとても嬉しい。



「記憶、戻ったんだ。良かった」



泣きそうになるのを堪えて、ナタに微笑みかける。ナタも、笑ってくれた。「待たせてごめん」と言うナタに、私は「本当だよね」と言う。皮肉を言ったのに、ナタは笑みを絶やさない。
その時、



「安静にしてろ馬鹿者ッ!!」



突然現れた斑にペシペシと頭を叩かれた。斑の後ろには、斑を呼びに行ったかぐやが立っている。しかし、斑は少し爪を立てているから痛いのなんの。もしかしたら頭にグサッと爪が刺さってしまうのではないだろうか。それはやめてもらいたい。



「ちょっと!! 安静にしてろって言うんなら叩かないでよ!!」
「うるさい馬鹿者!! この、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」



文句を言うと、斑も反論してきた。私はそのことにムッとし、更に文句を言う。



「馬鹿連発してんじゃねぇよ!! この、エセニャンコ!!」
「何をぅ!? 高貴な私を侮辱するなど、不届き千番!!」
「小汚い豚猫のどこが高貴だ!!」
「言ったなー!!? 小娘が生意気な!!」



口喧嘩を始めた私と斑に、馬超さんは呆れ、かぐやは苦笑し、ナタはキョトンとしている。そんなこともお構いなしに私達は口喧嘩をする。私達の口喧嘩を何事かと思ったのか、半兵衛さん達が集まってくる。と、その時、



「やめやめ、お互いに仲良くしろよ」



と言う呆れた声が聞こえた。本来この世界で聞くことのないその声に、私はハッとして声のしたほうを見る。――そこには、苦笑している田沼が立っていた。



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