29


今から妲己を助けに行く。突然、慌てた様子で訪れた卑弥呼。「妲己ちゃんを助けて!!」その言葉に、皆驚かされていた。「今ここで妲己を失うわけにはいかない」と、そう決断した私達は歴史の地である"関ヶ原"へと出陣したのである。
殺風景。一言で言えばそう言えるだろう。本当に何も無い。まるで焼け野原のよう。



「早く!! 早く妲己ちゃんを助けにいかな!!」
「落ち着いて、卑弥呼。ここで焦ったって何も出ないわ」
「でもッ……!!」



目に涙を浮かべながら甲斐さんにすがりつく卑弥呼。そんな卑弥呼の頭を、甲斐さんは優しく撫でる。普段ならば、姉妹のように見える。だが、今回ばかりは一大事。呑気なことを考えている場合ではない。私も役に立てるだろうか、と不安になっていると、半兵衛さんが「皐月殿は、俺と一緒に来てくれる?」と言った。私は半兵衛さんの指示に頷く。その後も、半兵衛さんは的確に皆に指示を出していった。さすがは軍師。



「行こう、皆」



指示を出し終わり、半兵衛さんがそう言う。皆「おう!!」と返事をし、それぞれ行動を開始した。次々と本陣から出て行ってしまう仲間達の後ろ姿を見ていると、かぐやが本陣から出ていこうとするのが見えた。



「かぐや、気をつけて」
「はい。皐月も、お気をつけて」



振り返り、私を安心させるように笑みをうかべるかぐや。そのまま小走りで本陣を出て行ってしまった。とうとう、本陣には半兵衛さんの部隊と私と斑という少数人数のみに。



「俺達も行こう」



そう言って走り出した半兵衛さん。半兵衛さんに続き、私達も走る。




 ***




しばらく走っていると、敵が見えてきた。「討伐軍が来たぞぉー!!」「お前等、行けぇぇえ!!」と声を荒げながら迫りくる敵。私は二丁拳銃を構え、敵の足を撃っていく。バンバンッと音を立てて撃つ弾は、ほとんど敵の足に命中する。私が撃つ弾が足に当たりさえすれば、相手は悲鳴をあげて動かなくなる。私の戦い方を見て疑問に思ったのか、半兵衛さんが私に近寄り、聞いてきた。



「皐月殿って、何でわざわざ足を狙うの?」
「足を狙ったら、もうそれ以上は動けませんからね」
「なるほど」



最初から足を狙えば、弾も最小限に使えるのもある。でも、弓兵だと遠距離も出来る為、腕や肩を狙っている。その時、伝令兵が慌てた様子で「伝令っ伝令ーっ!!」と半兵衛さんのもとに駆け寄ってきた。半兵衛さんは冷静に「どうしたの?」と伝令兵に聞く。



「妲己がナタから逃げ切った模様。どうやら瞬間移動を使ったようなのですが、もう動くことはできないようです!!」



……どうやら、この戦場にはナタがいるらしい。



「……厄介なことになったな」
「………、そうだね」



斑の言葉に、私は眉間に皺を寄せて返事をする。最近、この世界に来てから、段々ゲームの内容をほんの少しずつ忘れていくことに気づいた。以前ならこの戦場ではナタが出ると記憶していたのに、もう忘れてしまっていたらしい。……ナタ、ね……。会いたいけど、会いたくないな。



「卑弥呼は何処に居る?」



半兵衛さんの言葉に、私は眉間から皺を消し、半兵衛さんの視線の先にいる伝令兵を見る。伝令兵の言葉によると、卑弥呼は甲斐さんと共に妲己の元にいるらしい。どうやら合流できたようだ。だが、ナタの狙いは妲己。となると、ナタは妲己の前に姿を現すわけで、三人だけでナタに勝てるかどうか……。



「あの、私に、行かせてくれませんか?」



私の言葉に、半兵衛さんは唖然としながら私を見る。分かってる、こんな小娘が行ったって、ただ無様に負けるだけだ。そんなんで行かせる奴なんてどこにもいない。



「皐月殿! 自分が何言ってるか分かってるの!!?」
「重々承知です。……でも、ナタは私が止めなきゃ」



しっかりと、半兵衛さんの目を見て言う。これで駄目なら、強行突破しかない。私の表情を見た半兵衛さんが何かあると思ったのか、「一緒に旅してた人って、ナタのことなの?」と聞いてきた。確信をついたその言葉に、私は誤魔化すこともできずに「……はい」と頷く。



「……なら断る理由なんて無いね。危なかったら、絶対叫ぶんだよ?」
「え、あ……、じゃあっ……!!」
「うん、行ってよーし」



ニコッ、と笑って言う半兵衛さん。私はぱあっと笑顔になる。「俺達も追いつくように急いで行くよ」という半兵衛さんの言葉に、私は「ありがとうございます!!」とお礼を言い、斑に顔を向ける。斑は「うむ」と一言言い、ボンッ、と音と煙をたてて妖怪の姿になった。私はすぐに斑の背中に乗る。



「皐月殿、気をつけてね」
「はいっ!!」




 ***




妲己の元へ向かうこと数分。たったそれだけで、妲己達の姿が見えてきた。「いた!!」と妲己達の元を指さすと、斑は妲己達の元目がけて急降下する。「無事ですか!!?」と大きな声で聞くと、甲斐さんは私と斑を見て「どうして此処に!!?」と驚いた表情をする。そうこうしている間に斑の足は地につき、甲斐さんの言葉に返事をする前に、私は斑から降りる。



「ナタに、用があるんです」



甲斐さんは私の言葉に「ナタに?」と聞き返しながら首を傾げる。私は「はい」と返事をして、ナタを見る。ナタは本当に私のことを忘れてしまっているようで、私と斑を見ても首を傾げるだけだった。



「……君、誰? 僕の、敵……?」



初めて会った時と同じ台詞。それがナタと一緒に過ごした日々を思い出させて嬉しいのだけれど、その反面、罪悪感が芽生える。状況は最悪なものだけれど、ナタが私にとって大切な友人というのは変わらない。
さあ、ナタ。決着をつけよう。



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