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「無様だね」



縄で縛られている董卓を見て、私はそう呟いた。だが、聞こえていたようで「うるさいわっ!!」と怒鳴った。こやつ、反攻してきやがった。「縄痛くない?」と心配すると、「どうせ解いてはくれぬくせに」と言った。まあ、確かにそうなんだけどね。



「皐月、そこで何をしているのだ?」



董卓と話していると、斑がトコトコと私の元へ来た。……なんだか、物足りない。いつもなら、斑が来た後にナタも来てくれる。……ああ、そうか。ナタは、居ないんだった。ナタは、私が見捨てたんだった。



「……、悔やんでおるか?」
「……そりゃ悔やむよ。私が、見捨てたんだ」
「だが、あのままお前まで捕まっていたら、今頃どうなっているか分からんのだぞ」



斑の言葉に「それはそうだけど……」と呟く。あの時は的場さんの指示に従ったから逃げることが出来た。でも、もし今もまだ清盛の元にいたら、私は完全に清盛の手の上で転がされているだろう。それからは討伐軍とも敵対して、討伐軍の人と戦うことになる。そうなるのは本当に嫌だ。でも……、



「……自分が、許せない」



私は斑をギュッと抱きしめる。体が小刻みに震えているのは、自分でもよく分かる。瞼が熱い。ギュッと目を瞑るけれど、隙間から涙が溢れ出る。……何で、董卓の目の前でこんなに泣いてるんだろう。本当に、自分が情けなく感じる。斑も、董卓も、何も喋らず静かに私を見守ってくれている。何故かそれが心地良い。



「皐月ちん?」



くのいちの声が私の名前を呼んだ。思わず、ビクッ、と反応してしまう。「泣いてるの?」と聞かれ、私はすぐさま涙を袖で拭く。そして、くのに「ごめん、なんでもないよ」と笑顔を向ける。



「……あたし、そんなに頼りない?」



しかし、くのは私の笑顔を見て顔を歪めてそう言う。一体なんのことだろう。くのは充分頼りになる私の友人だ。何故そんな表情をするのか本当に分からなくて、今度は私が「どうしたの?」と心配する番だった。



「あたし、皐月ちんのそんな顔見たくない。……何か、辛いことあったんでしょ? 何で何も話してくれないの?」



ああ、そういうことか。うん、確かにね、辛いことたくさんあった。でも、私にとってナタは友人でも、くの達にとっては敵。話して良いか分からないし、隠したいわけじゃないけれど、迷惑をかけるのも気が引ける。



「……ごめん」
「ッ……謝ってほしくて言ったんじゃないッ!!!!」



悲痛な顔でそう怒鳴るくの。
くのに怒鳴られたのは初めてで、くのに悲痛な顔をさせてしまったのが初めてで……、私は心底吃驚する。多分、皆の視線は私とくのにいっていると思う。なにせ、この人数では微妙に狭い拠点。大声を出せば、誰にでも聞こえるであろう。



「……ごめん」
「ッ!!」
「お、落ち着け!!」



私に掴みかかってきそうなくの。それを幸村さんが慌てて止める。



「皐月ちんが一人で何か溜めこんでんの、あたし知ってるよ!? かぐちんだって知ってる!! 何でそんなに無茶するの!!?」



……そうなんだ……、やっぱり、皆気付いてたんだ……。



「そっか……、うん、ごめん……、ありがとう」



笑みを浮かべて素直にお礼を言う私。そんな私に、怒鳴ったくのも、そんなくのを抑えている幸村さんも、「え」と声を漏らす。おかしいよね、怒鳴られたのにお礼を言うなんて。でも、怒鳴られたのが気にならないくらい、私はくのに心配されて嬉しいんだ。



「ぶっちゃけ、よく分かんないんだ。的場さんや田沼がいる元の世界に帰りたい気持ちも勿論あるんだけど、この世界にだって私の大好きな人達がいる。くのもその中の一人。この世界にも、元の世界にも、大切なものをつくりすぎた」



それが悪いっていうわけではないのだと思う。けれど、それはいつだって失うと怖いものなんだ。それに……、



「旅の途中で、見捨てた人も居る」



私の言葉に、くのと隣に居る幸村さんの目を丸くする。周りの皆も、相当驚いていると思う。私は思わず、苦笑した。そして、何故その人を、ナタを見捨てることになってしまったのか、経緯を話す。



「一回、平清盛に捕まったの。この枷は、幽閉された時につけられた枷」



そう言い、ジャラジャラと音を立てながら枷を見せる。私の言葉を聞き、いち早く反応した義経さんの「清盛に……!!?」という驚きの声が聞こえた。



「その人も一緒に捕まった。でも、その人は元々敵で、仲間になってくれたのには驚いた。私と斑は一緒に幽閉されてたから一緒に逃げれたけど……、その人は別の所に行かされた。その人は、清盛に記憶を消されて、一緒に逃げれなくなったの」



私の言葉を聞き、幸村さんが「それで、ニャンコ先生殿と共に二人だけで逃げていた、というわけですね?」と聞いてきた。私はその言葉に頷く。本当は見捨てたくなかった。一緒に逃げたかった。でも、それが出来なかった。不甲斐なさに涙が出そうになりながらも、「泣くな泣くな」と心に言い聞かせる。……そんな時、馬超さんの「クックック」と喉で笑う声が聞こえた。私は目を点にしながら馬超さんを見る。馬超さんは私を見てかっこよく笑みを浮かべていた。



「強くなったな、皐月」



強くなった、と言われても、どこが、と思ってしまう。馬超さんの言葉の真意が分からず、首を傾げると、馬超さんに頭を撫でられた。それは優しい手つきではなく豪快で、私の髪の毛が乱れてしまう。「ちょっと!!」と抗議をしようと声をあげると、馬超さんの手は私の頭から離れた。



「表情も前と違って随分逞しくなったものだ。お前が強くなって帰ってきて、俺は嬉しく思う」



馬超さんの言葉。本当に逞しくなれているだろうか。本当に強くなれているだろうか。半信半疑ではあるものの、馬超さんの言葉は素直に嬉しく、私は「でしょ!!」とニカッと笑みを浮かべた。



(若、イチャイチャしないで恥ずかしい。)
(なっ……、イチャイチャなどしていないっ……!!)



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