18


翌日。昨日、斑が言った言葉通り、私と斑は旅に出ます。本当、いきなりの展開すぎて頭がついていかない。斑は何を考えているんだろう。旅支度をしてニャンコ姿の斑を横につれ、本拠地の出入り口に立つ。振り返って皆を見ると、今にも泣きだしそうなかぐやが「気をつけてくださいね、皐月」と言ってくれた。私はかぐやに微笑んで「大丈夫だよ」と言う。保障はないけれど斑もいるし、私も少し戦えるようになってきたし。



「皐月ちん、元気でね?」
「次会う時に元気じゃなかったら怒るからね」
「せいぜい妖に食われぬようにな」
「馬超、本当は心配なんだろ?」
「な、何をっ……!!」
「若ってば、本当に素直じゃないんだから」



元気な笑顔を浮かべるくの、少し心配そうな半兵衛さん、顔を赤らめる馬超さんに、苦笑する司馬昭さんと馬岱さん。私はくの達の言葉聞き、思わず笑う。本当は他にもギン千代さん達がくの達の後ろにいるんだけど、一人一人の言葉を聞いていると長くなりそうである為か、私の顔を見るだけだった。



「……達者でな」



ふと、官兵衛さんが皆を押しのけて前に出てきた。私の顔を見て言う表情は、心なしか心配そうに見える。私は大丈夫だという意味を込め、笑顔で「はい」と返事をする。官兵衛さんは私のことを娘と思ってくれているようで、不器用に頭を撫でてくれた。そのことにおかしそうに笑みを浮かべつつも、嬉しくて「父上」と呼ぶ日が本当に来るかもしれない、と思った。



「次会うときは、一か月後の小牧長久手で」



私がそう言うと、皆頷いてくれた。その様子を見て「じゃあ」と手を振り、皆に背を向けて歩き出す。斑も、私と同じように隣で歩き出す。何故あのまま旅に出ることになってしまったのか、それは昨晩の出来事が原因である…――。




 ***




昨晩。斑のいきなりの「旅に出る」という発言に、私は勿論文句を言った。「どういうこと!!?」と言う私の言葉に、斑は妖の姿からニャンコの姿になる。「言葉通りだ」と言いながら毛づくろいする斑は可愛いのだけれど、それは答えになっていない。納得していない私の表情を見て、斑が毛づくろいをやめて私を見上げる。



「お前の本業は、妖の邪を祓うこと。つまり、この世界の妖の邪を祓わねばならん」



……だからって急すぎる。確かに、私は的場さんから妖の邪を祓う仕事を貰った。この世界に来てからだって仕事のことは忘れていないし、妖のことに気を配らない日だってない。それに、この世界ではそのことに付け加えて妖蛇のこともある。人手が足りない今、私達は充分に仲間が集まるまで、この軍にいるべきだ。



「まだ分からんのか? この世界にだって妖は何百万といる。そのほとんどの妖がお前を狙っているんだぞ。もしかぐや達が巻き込まれたら、お前はどうする気だ」



確かに、斑の言うとおりだ。この世界に来て今まで、妖と争ってきたが、そのほとんどが私を目的とした妖ばかり。私にはなんのことがさっぱり分からないが、この前の妖だって「お前を連れ帰れば強くなる」って言っていた。そうなると、私がこの軍にいることによって、かぐやや半兵衛さん達みたいな関係のない人が巻き込まれる可能性だってある。



「行け、皐月」



眉間に皺を寄せて考え込んでいると、馬超さんがそう言った。その言葉に、私は「えっ」と声を漏らして馬超さんを見る。馬超さんは、とても真剣な表情をしていて、嫌でもその言葉が冗談ではないことが分かる。



「少しでも戦力を失うのは惜しいが、お前にはお前のやるべき事がある。それを全うして来い」



馬超さんが力強く私に微笑みかけてくれる。



「そうだね。それは皐月殿にしかできないことなんだし」
「妖のことについては、俺達が口をはさんで良い話じゃないしな」



それに続き、半兵衛さんと司馬昭さんが馬超さんの言葉に同意する。困惑してかぐやの顔を見ると、かぐやは泣きそうな顔をしながらも微笑んで頷いた。かぐやも馬超さん達と同じなのだろう。



「……分かりました。私、旅に出ます」



まだまだ不安はある。でも、妖の邪を祓えるのは私しかいないし、妖から皆を守れるのも私しかいないから。私が頷いたのを見て、司馬昭さんが「よく言った!!」と笑って私の頭を豪快に撫でた。




 ***




というわけで、旅立ちました。わけだけれど、本当先行き不安で早速お腹が痛くなってきた。……こんなんで私大丈夫なんだろうか。いざとなったら逃げてしまおうか。うん、そうしよう。そうするしかない。



「妖が現れても逃げるなよ?」
「え、駄目?」
「駄目に決まっておろう馬鹿者がっ!!」



……なんか、斑と旅するのって疲れそう。



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