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歩き始めてどのくらいが経っただろう、と携帯を見ると「10:23」と出ていた。討伐軍の本拠点を出たのは九時半くらいだったから、一時間くらいは歩いただろうか。私が履いている靴は運動靴というよりは、オシャレな感じの靴である為、長々と歩くには不向き。靴擦れなのか、足首の後ろがジンジンとして痛い。



「……痛いか?」



私の歩き方が不自然で靴擦れに気付いたのか、斑はそう聞いてきた。バレたことに少し面倒だと思いつつ、私は眉間に皺を寄せながら「……ちょっと、ね……」と呟き加減に言う。靴下はフットカバーを履いている為、歩きながら足首の裏をこっそり見る。血は出ていないものの皮は少し剥けており、その周囲も薄く赤くなっていた。



「さすがに歩き続けるのは無謀だな。どこかに街があると良いのだが…」



立ち止まり、周りをキョロキョロ見渡す斑。私も、周りを見渡してみる。だが、街らしきものは見当たらない。そのかわり木はたくさんあるのに。本当に街はないのか、と目を凝らして周囲を見渡し「あ」と声に出す。斑が「どうした?」と聞いてきたので、私から見て右側にある木の一本を指さす。そこで、誰かが木に背中を預けてグッタリ座っているのだ。ここからじゃよく見えないが、体中に傷だらけのようものがある。



「……なんだ? あのふざけた格好は」



そう呟いて、その人物に近づいていく斑。私は痛む足首裏を我慢しつつ、慌てて斑を追いかける。その人物の姿が、次第にちゃんと見えるようになってくる。ピンク色の髪の毛に、全身タイツのような物を着た人物。
――ナタだ。
ナタは討伐軍にとって敵。となると、私にとっても敵となる。……ここは助けないほうが良いのだけれど、どうしてこんなところに一人なのか気になる。斑に「どうする?」と聞こうとしたその時、ナタの目が開かれ、私を視線で捕えた。思わず強張ってしまう体。



「……君、誰?」



静かにそう言いながら、私を睨むナタ。その睨みが怖くて、「えっと……」と言葉に詰まっていると、



「……ッ僕の、敵……?」



そう言いながら、痛む傷を堪えて立ち上がろうとするナタ。明らかに無理をしているその姿が見ていられず、私は傷に触れないようにナタを支える。「動くと傷が深くなりますよ!!? 座ってください!!」と言いながら、ナタを座らせようと肩を下に押す。ナタは余程立っているのがキツかったのか、半ば倒れるように座る。



「大丈夫ですか? 危害なんて加えませんから、ゆっくり座ってください」
「……うん」



長い間があったようだが、ナタは私に従ってくれた。ナタが私に危害を加えない様子に、私はホッとしてナタを支えていた手を離す。こんなに全身傷だらけでどうしたのか分からないけれど、戦でもあったのだろうか。討伐軍は何日か前に戦があったけれど、その時にナタがいるなんて情報なかったしな……。



「……君、名前は?」



どういうことだろう、と自分なりに考えを巡らせていると、ナタから話かけてくれた。慌てて「夏野皐月です」と言って軽く頭を下げる。すると、「僕はナタ」とナタも言ってくれた。「うん、知ってますよ」なんて言えず、「ナタさんですね」といかにも名前を覚えようとしているかのように反応をする。



「皐月は、こんなところで何をしていたの?」
「その、旅を、始めたのですが、この辺りに街が見当たらないので、困っていたんです」



私の言葉を聞き、ナタが何やら考える素振りをする。しばらくすると「あ」と声をあげた。そして「向こうに、街があった気がする」と言った。「えっ」と思わず声に出すと、ナタは左の方を指さす。ここからじゃ街は見えないけれど、どうやらあっちに街があるらしい。



「……皐月の足の痛さでは、その街まで行くのは無理であろう」



私と同じようにナタが指さした方角を見て、ニャンコ姿の斑がそう言った。そのことに、ナタが「猫が、喋った……?」と少し驚いた表情を見せる。これはヤバい。慌てて「この猫、妖なんです」と説明すると、ナタは「この世界なら何でもありそうだよね」と納得してくれた。流石は遠呂智が創り上げた世界。



「……で、皐月は足の何処か怪我してるの?」
「あ、靴擦れが……」
「もろいね」
「返す言葉もありません……」



ナタの言葉が胸に突き刺さり、一人沈んでしまう。そしたら斑に軽く背中を蹴られた。「いたっ」と声に出して斑を見ると、斑は平然と私を見上げている。この野郎め。



「皐月がこんなんじゃ、到底歩くのは無理だな。しばらく此処で休め」
「うん。……ごめん、斑」
「謝るんだったらさっさと足の痛みをなおせ」



キツい物言いではあるが、心配してくれていることが分かる。私は斑の言葉に、ナタの隣に座って木に背中を預ける。空を見上げると、橙色が広がっていた。「今晩は此処で野宿かな」と思わずため息をついてしまう。



「……ナタさんは、これからどうするんですか?」
「うーん、別にすることもないしなあ……」
「ではお前も野宿だな」
「そうだね」



何を勝手に話を進めてるんだ。まさかナタも一緒に野宿だなんて……。寝ている間に殺されたら一生斑を呪ってやるわ。



(そうと決まれば食料探しだ!! by.ニャンコ)
(皐月はここで待ってて。 by.ナタ)
(うん、ありがとー!! by.皐月)



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