09

神社の階段に座り、膝に顔を埋める。周りには誰も居らず、私だけが神社にいる。風が吹けば、夏だというのに少し肌寒く感じた。羽織を買えるお金なんて持ってないし、我慢するしかない。
ぐぅぅうう。
……お腹空いた。お腹が豪快に鳴り、思わずそう呟く。けれど、言葉に出しても、食べ物が降ってくるわけがない。その行動は無意味に終わった。



「……娘、そんなところで何をしている」



聞いたことの無い声。「さっきまで私だけだったのに」と思いつつ、私はゆっくりと、私に声をかけてきた人を見た。金髪で紅い瞳をした男性。着物を着ているけど派手な身なりで、南蛮人なのではないか、と思ってしまう。……えっと……。南蛮人って疑問を持つと話かけづらくなってしまい、どう話を切り出したらいいか困る。そもそも「そんなところで何をしている」って聞かれても、ただボーッとしてただけだから答えづらいし……。この人こそ、なんで私に声をかけたんだろう。



「ん? 貴様、まさか妖が見える娘では……?」
「ッ!?」



ふいに言った男性の言葉に、私は思わず目を丸くして驚いた。なんで、この人が私の事を知っているのだろうか。もしかしたら人間ではなく、妖だったりして……。キッと睨み警戒心を出しながら「……私に、何か用ですか」と相手に聞く私。男性は、私の様子を鼻で笑った。



「安心しろ。貴様をどうこうしようという考えはない」



余裕の笑みでそう言う男性。だけど、今まで会ってきた妖の中には、わざとそう言って私に油断させて襲ってくる奴もいた。この人は人間なのか妖なのか分からない人だし、余計に警戒しなければならない。



「俺の名は風間千景。ある程度の力を持つ妖なら見えるが、下級の妖が見えぬ西国の鬼の風間家頭首だ」



鬼?
……そうだ。西国の鬼の頭首である風間家と、東国の鬼の頭首である雪村家は常に人の姿で生活していると聞いたことがある。雪村家は絶滅したと聞いたけれど、風間家はいまだに生き残りがいたのか。
過去に妖同士が話していた内容を思い出していると、「貴様の名は?」と聞かれた。……、私の名前、知ってるわけじゃないんだ。妖の間で私はある程度有名らしいから、嫌でも名前まで耳に入ってくるのかと思っていた。
私は控え目に、自分の名前を言う。すると、風間さんは覚えようとしているのか「橘、か」と小さく呟くと、私に視線を向けた。



「覚えておこう。また会うかもしれないしな」



風間さんはそう妖しく笑い、私に背を向けて歩いて行ってしまった。
風間千景、か。なんだか、不思議な人だった。あ、いや、妖だから人ではないか。
風間さんの後姿が消えるまで、ボーッと風間さんの後姿を見る。見えなくなると、私はなんとなく空を見上げた。いつの間にか、夕方から夜へと変わっていた。少しだけ星も見える。もうこんなに暗くなってしまって、近藤さんは心配してくれているだろうか。……どう、なのかな……。



「キサマ、橘伊織だな?」



ゾッとするほどの低い声。これは、人の気配ではない。
――…妖だ。
条件反射で、思わず立ち上がって妖を睨みつける。でも、今の私には武器と呼べるものがない。襲い掛かってきたら逃げるしかないだろう。「誰?」と聞いても、「ヒヒッ」と笑われるだけ。答えるはずがないか、自分が何者なのかなんて。



「橘伊織、貴様の妖力は今までに会った人間の中で遥かに高い」



半身しか無い人間の形をした、顔だけ化け猫のような顔をした妖。その妖は、ゆっくりと私に近づいてくる。けれど、どうしようか……。逃げようとしても、後ろには社があるし目の前には妖がいるから逃げるのは難しい。「帰って」と言うけれど、「そう言って立ち去った妖が居たか?」と返されてしまった。……確かにいない。それで立ち去ってくれるのなら、もっと早く言っている。



「……私を食べても、美味しくないよ」
「いや、美味しいさ。妖力の高い奴は美味しいに決まってる」



どうにかして、この妖から逃げないと。でも、相手はどんどん私に近寄ってきてるし、段々逃げ道が狭まってく。どうしよう……。そう思った時、



「居た! 伊織発見!」



……龍の声だ。龍の声がした方を見ると、龍が汗をかきながら安心したかのように私を見ていた。非常にマズイ。このままでは、龍も妖に食われてしまう可能性がある。龍が急に現れ、妖の意識が私から龍に変わった。その隙を見逃さず、私は妖から急いで逃げる。



「ッ! しまった……!」
「ん? どうしたんだ? そんなに速く走って」



妖の横を走り抜け、龍へと向かう。龍へと近づいた私は、走る速さを変えることなく私に話しかける龍の手を掴み、一緒に逃げようと走りながら手を引っ張った。私の行動に「っうをぉお!? 伊織!?」と相当驚いている龍。けど、今は状況を話している場合じゃない。追いかけてくる妖から逃げないといけない。
ごめん、龍。こんなことに巻き込んじゃって。


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