08

新選組を出て、私はとぼとぼと歩いていた。
もう夕方だ。これから、どうしようか。行く宛てなど無いし、当然住む場所も無い。近藤さんと会って、まだ一日も経ってないのにこんな事になるなんて。……はあ、やっぱりついてないなあ……。そうだ、神社に行こう。あそこなら人も来ないだろうし、ゆっくり寝れる。




 ***




「おい! 伊織が居ないってどういうことだよ!?」



永倉新八に掴みかかる井吹龍之介。龍之介の目は瞳孔が開いており、怒りをあらわにしている。だが、そんな龍之介に対し、新八は「ちょ、ちょっと落ち着けって」と、動揺しながらも自分の着物から龍之介の手を放す。
伊織が居ないことに気づいたのは、調度夕方から夜に変わる時だった。真っ先に気づいたのは新八。干した布団一式を伊織の部屋に持って行ったが、部屋にはおらず、周りの人達に聞いたみたが「知らない」とのこと。普通ならこんなに探し回って知らない人なんて居ない。そこで気づいてしまったのだ。……”居なくなった”のだと。



「僕が出て行ってほしいって言ったんだよ」



沖田総司の言葉に、「何!?」と総司を睨む龍之介。「規律が乱れてからじゃ遅いからね」と言う総司の言葉に、彼が伊織に対して何を言ったのか薄々気づく。近藤勇が悲しそうな表情を浮かべるが、総司はそれを見て見ぬふりをする。総司に掴みかかろうとする龍之介を抑えると、「とりあえず探さねえと」と提案する原田左之助。



「家が無いんじゃ、一人で夜過ごさせるのは危険だしな」
「だな。それに雇った以上、解雇するかどうかは近藤さんが決めることだ」



藤堂平助と新八が続けて言う。



「馬ならともかく、人の足ではそう遠くへは行っていないはずです、手分けして探しましょう」



山南敬介の言葉に、龍之介が一目散に走って行ってしまった。「お、おい!」と慌てながらも平助も走り、続いて新八、左之助と続く。斎藤一も、彼にしては珍しく自分から「俺も行ってきます」と言って行ってしまった。土方歳三はそのことに疑問に思いつつも、総司に視線を向ける。総司は不満があるようで、それを顔に出していた。歳三が声をかけようとするが、それよりも先に、近藤が総司に声をかける。



「伊織君は、唯一家族と言えるような人を、昨日火事で亡くしているんだ。総司、どうか分かってほしい」



言われた総司も、その場に残っていた歳三、山南が驚きの表情を見せる。そんなこと、彼女は一言も言っていなかった。新選組の為に行った言動が、総司を後悔させる。近藤の言ったことが本当なら、彼女は深く傷ついてしまっただろう。言ってしまったことは取り返せないが、謝ることは出来る。
走り出した総司に、近藤はホッとした。


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