06

私の部屋となる部屋に案内してもらった。使っていないのか埃が多く、物は一切無かったが、永倉新八さんが後で布団を持ってきてくれると言っていた。とりあえず、この埃をどうにかしないと。
はたきと雑巾を貸してもらい、障子を開けて埃を落としていく。しばらくすると、バタバタバタッ、と大きな足音が聞こえてきた。何かあったのだろうか。掃除をする手を止め、音が聞こえるほうに顔を向ける。室内にいるから音の正体は分からないが、この部屋に何かが勢い良く入ってきた。



――スパンッ!



大きな音を立てて、障子が閉められる。
急に部屋に入ってきて、急に障子を閉めたその人物は、疲れているのか「はあ、はあ」と息を整えている。しかし私に気づいていないのか、こちらを見ようとしない。障子を閉められてしまったから、これ以上掃除を進めることが出来なくなってしまった。



「あの……、」



声をかけると、彼はビクッと反応し、驚きの表情を浮かべながら私を見た。「あ、アンタ誰だ?」と聞く男性に、私は「えっと、」とどう説明をしようか困惑する。此処に居るということは、彼も新選組隊士の一人のはず。なかなか言わない私に、彼は気まずそうに頭をガシガシと掻くと、口を開いた。



「俺は井吹龍之介。言いたくなかったら、別に良いんだが……」



いぶきりゅうのすけ、というのか。言いたくなかったわけじゃない為、慌てて「橘伊織です」と言うと、彼はぱあっと笑みを浮かべて「いくつだ?」と聞いてきた。正直に「十六です」と答えると、驚いた表情をされた。どうやら同い年らしい。そういえば、今まで同い年の友人っていなかったな。……友人に、なってくれるかな……。



「俺、同い年の友人って初めてだ。よろしくな!」



そう言って、嬉しそうに笑う井吹さん。それは本当に心の底から喜んでいるような表情をしていて、私もなんだか嬉しくなってしまった。「こちらこそ」と言うと、井吹さんはニカッと太陽のような笑みを浮かべる。本当に嬉しい、私なんかを友人って言ってくれた。



「なあ、伊織って呼んでも良いか? 俺のことも名前で良いからさ!」
「も、勿論! あの、じゃあ、私は龍って呼ぶね。龍之介は長いから」
「ああ!」



笑い合う私と、初めてできて友人の龍。でも、龍が妖のことを知ってしまったら、どう反応するだろうか。私から離れていってしまうのだろうか。自然と後ろ向きな思考をしていることに気づき、話題を変えようと口を開く。
「どうしてこの部屋に入ってきたの?」と私が聞くと、龍は青ざめた表情で「あっ!」と声をあげた。結構大きな声で急に言った為、私の肩がビクッと反応してしまう。恥ずかしい。でも、龍はそんな私に気づいていないようだ。良かった。



「いっけねェ、芹沢さんに追いかけられてたんだ……」
「せりざわさん?」
「俺を拾ってくれた命の恩人、……なんだが、俺をこき使うんだよなァ」



頭をガシガシと掻きながら、眉間に皺をよせて言う龍。相当、その芹沢さんって人のことが苦手なようだ。
その時、誰かが部屋に入ってきた。
私と龍は反射的に開いた襖へと顔を向ける。……そこに居たのは、意外にも斎藤さんだった。「今良いか?」と聞かれ、慌てて「はい」と頷く。……でも、どうしても、斎藤さんの後ろにいるヒノエへと視線がいってしまう。これでは、また気味悪がられる。せっかく、友達と呼べる人ができたというのに。



「……井吹も居たのか。では、また二人きりの時に話そう」



目を閉じてそう言う斎藤さん。二人きりって、余程大切な話なのかな……。出てけって言われたらどうしよう……。私が心臓をバクバクさせながら不安になっていると、龍が「へぇ〜」と言った。龍へと顔を向けると、龍はニヤニヤしながら斎藤さんを見ているではないか。……どうして?



「それって、他人に聞かれちゃ駄目なことなのか?」



龍の問いに、斎藤さんはさも当然と言うかのように無表情で「そうだが?」と答えた。龍はいまだにニヤニヤしている。「ふぅーん、あの恋に興味の無いアンタがねェ」と言う龍に、私は彼が勘違いしていることに気づく。



「私と斎藤さん、今日初めて会ったばかりだから、そういう関係じゃないよ」
「えっ!? 違うのか!? 俺、てっきり恋仲かと……!」



案の定、龍は私と斎藤さんが恋仲だと思っていたようだ。思わず苦笑してしまう。斎藤さんは以前から龍のことを知っていたようで、呆れたように「馬鹿か」と呟いた。勿論、龍はその言葉を聞いて「っなんだとゴラ!」と突っかかる。
……喧嘩はやめましょうよ。


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