04

自宅に着いた。
道中、男性の名前を教えてもらった。彼は”近藤勇”というらしい。近藤といえば、新選組局長と同じ姓だ。……人斬り集団には見えないが、彼は新選組の局長を務めているらしい。
自宅には今朝となんら変わらない位置で、私とお菊さんの私物がある。お菊さんの着物、お菊さんの髪飾り、お菊さんの手鏡。お菊さんの私物全てを、集めてみる。あれもこれも、全て、もう二度とお菊さんが手に取ることはない。



「……捨ててしまうつもりかい?」
「それは……、」



近藤さんの言葉に、言葉が詰まる。彼の言った通り、全て捨てるつもりだ。けど、どれも捨ててしまうには惜しい。捨ててしまうと、お菊さん自身まで捨てたのではないかと、そんな救いようのない罪悪感が芽生えてしまう。躊躇している私に気づいたのだろうか、近藤さんが私の背中を優しく撫でてくれる。全てではなくて、せめて一つだけでも、形見として持っていられたら……。



「これは、私が貰おうかな……」



手に取ったのは、手鏡。幼少期の頃から使っていたという手鏡は、少々古いが、裏の桜の模様は私も好きだ。手鏡は帯の中にしまう。他のものは、名残惜しいが捨ててしまおう。そうしないと、私はずっと、お菊さんにすがってしまう。
後は……、私のこれからが問題だ。まずは働き先を探さないと、この家の家賃も払えなくなり、追い出されることになる。



「君が良ければ、なんだが……、」



言いづらそうにしながらも、近藤さんはそう言った。私の目が合った近藤さんは「えっと、」と言葉の続きを躊躇しているようだ。どうしたんだろう。私が続きをじっと待っていると、苦笑し、すぐに口を開いた。



「私のもとで、働かないか?」



え?
今の私は、口が少し開いていて間抜けな顔をしているだろう。近藤さんは何も言わない私に、「や、やっぱり嫌、かな?」と苦笑する。思わず「あ、いや……」と言葉に詰まる。
近藤さんのもとで働くってことは、私も新選組の一員になるということ? でも私、竹刀や木刀でさえも持ったことないから、刀は更に扱える自信が無い。それに、何より……。
考え込む私を見る近藤さんは、じっと待っているけれど、どこかそわそわしている。そんなに私のことが気がかりなのか、それとも新選組が人員不足なのか。ほんの少しの時間でも、彼に悪意が無いということは分かったから、引き取って何かをしようだなんて考えていないのは自分でも気づいた。



「あの、私、人を殺すのは……」
「えっ? あ、もしかして私が新選組だと知っているのかい?」



正直に頷く。彼は「参ったなあ」と苦笑するが、すぐに「人を殺してほしいわけじゃないんだ」と慌てた。



「ただ、新選組は男しかいないから、どうしても掃除や洗濯に手が届かなくてね……。手伝ってもらいたかったんだ」



つまり、刀を持つ仕事は一切しない、と。しかし、人斬り集団となると物騒な人が多いんだろうなあ。ちょっと気に障っただけで斬り殺されたりしたら堪ったもんじゃない。けど……、近藤さんを見ると、人斬り集団だと一括りにするのもどうなのか、と疑問に思ってしまう。……いやいや、何を毒されてるの、私。身の安全の為にも、ここはキッパリ断るべきだ。
意を決し、近藤さんを見る。近藤さんは緊張の面持ちで私を見ていたようで、目が合った瞬間「どう、だろうか?」と聞かれた。うっ……、そんな顔で見られたら……。



「あ、の……、やります……」



……、私の馬鹿。


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