02

案内された場所は、新選組屯所、とかかれた門の前。
中には立派とはいえないが、それなりに良い家が建っていた。先程私に「一緒に来るかい?」と声をかけてくれた男性は、近藤勇というらしい。私は近藤さんと呼ぶことにした。そういえば、新選組ってどっかで聞いたことあるような……。



「さて、皆に紹介するか」
「皆……?」
「見たら驚くぞ〜っ!! 柄は悪いが、皆良い奴等だ」



近藤さんはそうニカッと笑って言うと、私の手を取った。急なことに私は驚くのだが、近藤さんはさも気にしていない様子で歩き始めた。気にしても仕方ない、と思い私もとぼとぼと歩き始める。




 ***




連れてこられた部屋には何人かの男達がいた。
部屋に入った瞬間、ギロッ、と睨まれた時には死ぬほど怖かった。「さ、此処に座ってくれ」と笑顔で自分の座った隣を、ポンポン、と軽く叩く近藤さん。私は怖い視線から逃げるように近藤さんへと視線を向け、おずおずと頷き、大人しく近藤さんの隣に座った。
でも相変わらず、たくさんの冷たい視線が恐い。



「皆、そう睨まんでくれ」
「……近藤さん、何故ここに子供を連れてきた?」



苦笑する近藤さんに対し、黒い髪の毛をひとつにまとめた男性が厳しく言い放つ。私のせいで近藤さんが咎められているが、私は恐くて何も言えずに俯く。



「……この子は、家を失くしている身でな。たまたま通りかかった道に燃えている家があったんだ。その前で、この子が泣いていた。俺は、どうしても放っておくことが出来なくてな」
「こんな子供を、ここに住ませるってことかよ……!!?」
「ああ」



眉間に皺を寄せる髪をひとつにまとめた男性と、真剣な表情でしっかりと返事をする近藤さん。男性は近藤さんの表情と言葉に、ギリッ、と怒りを我慢するように歯を強く噛む。
……私、本当は此処にいちゃいけないんじゃ……。状況が悪すぎてどうすれば良いのか分からないでいると、ポン、と頭に何かが乗った。驚いて顔を上げる。



「んな不安そうな顔すんなって」



私の目の前には、いつの間にか赤い髪の毛の男性が居た。頭に乗っているのは、この男性の手だろう。男性は他の人達より穏やかな表情をしており、私は少し安心した。でも、私は男性の返答に困り、思わず目線を逸らしてしまう。



「お? なーんだ、正面から見ると更に可愛い顔してんじゃねぇか」



そんなことを言われ、控え目に男性の顔を再び見る。私の視線に気づいた男性は、ニッ、と私を安心させるかのように優しく微笑んだ。見た目は怖いけど、本当は優しい人のようだ。兄上にしたいような、そんな雰囲気をした人。そんなことを考えていると、赤い髪の男性は、髪をひつにまとめている男性に顔を向けた。



「土方さん、俺は賛成だぜ。家が無い子供を放っておくわけにはいけねぇからな」
「なっ……、お前まで……!!」



絶句したように驚いて赤髪の男性を見る「ひじかた」と呼ばれた男性。その男性は何かを言おうかと口を開いたが、「皆に自己紹介をしてくれないか」と私に言う近藤さんの言葉に遮られ、結局口を閉じてしまった。こんな状況で口を開きたくはないけれど、仕方ない。



「……橘、伊織と申します……」



弱々しくながらもそう言って頭を下げる。頭を上げても、私への警戒心が薄れないようで、まだ私に冷たい視線が向いていた。
――それと同時に、冷たい変な邪気も。
その変な邪気は、黒紫色の髪をした男性の背後から感じた。恐る恐るその男性を見ると、男性も私を見ていたようで、バチッ、と目があった。その瞬間、瞬時に目をそらした私。男性の背後から見えた妖……、ばっちり見えた。まだ見たことのない妖だ。でも、何度か妖に噂で聞いたことがある。名を、ヒノエ。呪術の知識が豊富だという。最悪だ……、まさかこんな所で妖に会ってしまうだなんて……。しかも結構強い気を感じる。



「トシ、自己紹介をしてあげてくれ」
「チッ、まだ認めたわけじゃねえからな」



そう言いながらも土方歳三さんから始まり、山南敬介さんまで自己紹介を終えて、静かになる。でも、山南敬介さんで最後ではない。だって、あの黒紫色の髪の毛をした人がまだ自己紹介を終えていないから。黒紫色の髪の毛をした人の後ろには妖がいると分かっている為、私は俯くことしか出来ない。



「……、一君? どうかした?」
「……いや、なんでもない。俺は斎藤一だ。先程、俺の後ろを見て怯えていたようだが?」



沖田総司さんの言葉に一言で答えて、名前を言ってくれた斉藤一さん。けれど、その次の言葉で、私は顔には出さなかったものの心の中で驚いた。今まで、「何で俺を見て怯えるんだ?」と聞かれたことはあるけれど……、「何で俺の後ろを見て怯えるんだ?」と的確に言われたことは無かった。……何故か無償に、恐かった。誰にも気づかれないように、裾をぎゅっと握りしめる。そして私は言うのだ。



「……気のせいだと、思います……」



だって……、信用したわけじゃないから。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -