01

幼い頃からずっと、妖が見えてきた。



「ねえ母上、あそこに変なおじさんがいるよ」



そんな私を、母上も父上も周りの人も気味悪がった。



「……何を言っているの? 誰も居ないじゃない。変なこと言わないで」
「ったく……、毎回毎回変な事を……。よく飽きないな……」



信じてほしかった。



「嘘じゃないよ!! 本当にいるもん!!」



嘘なんてついてない。



「ふざけるのも大概にしろッ!!」
「そんなに私達の事が嫌いなの!?」



嘘なんて、ついてないのに……。
妖が見える。そんな事を言っても、皆信じてくれなかった。だから私はずっと…――ひとりぼっちだった。
ある日、団子を買いに出掛けて家に帰ったら、居るはずの母上と父上が居なかった。何度名前を呼んでも出てこない。いない。いつか帰ってくるだろう、と普通に過ごした。……でも、何日経っても母上と父上が帰ってくることは無かった。
――捨てられたのだ。
苦しかった。悔しかった。怖かった。寂しかった。その夜、私は一人で泣いた。ただ、たくさんの感情を涙にのせて流すように。




 ***




「伊織ー、そこにあるやかん取ってくれるー?」
「はーい」



色々なことがありながらも私は十六歳になった。
そして私は今、この山本家に居候させてもらっている。初めて山本家に会ったのは、私が何も食べるものがなくて倒れているところを助けてくれた時。山本家の皆はとても良い人達で、私が妖が見えることを知っても私を拒むことをしなかった。
そして先程、私にやかんを取るように頼んだのが、山本家の長女・山本菊さん。お菊さんの父上にあたる人が源作さん。お菊さんの母上にあたる人が弥江さん。そして、山本家の次女・和葉ちゃんだ。この家族は、団子屋を営んでいる。この団子屋は繁盛していて、弥江さんお手製の団子を食べた時、凄く美味しくて驚いたものだ。



「今日はまた随分と人が多いわね。あら、お茶の葉が無くなっちゃった……、悪いけど伊織、買ってきてくれないかしら?」
「はい、分かりました。いくつ買ってくれば良いですか?」
「そうね、三つくらい買ってきてくれる?」



「はい」と手渡されたお菊さんに渡されたお金。私はそのお金を持って「行ってきます!」と言って買い物に出かけた。その際、お菊さんが「行ってらっしゃい」と笑顔で手を振ってくれた。凄く嬉しかったから、私も笑顔で手を振り返した。




 ***




その後、私はお茶の葉を買い終わり、山本家へと戻った。帰ったら「おかえり」と笑って迎えてくれるお菊さん達が居るだろうと、思っていた。けれど……、



「おい、そっちまだ火が消えてねぇぞ!!」
「水がたりねぇんだよ!!」



――…山本家が燃えていた。思わず頭の中が真っ白になる。



「放火魔がやったらしいわよ……。昼間なのに、怖いわね……」
「あら、嫌だわ……、最近物騒ね……」



小声で話している人達の会話を聞いてしまった。あの人達の話からすると、火をつけたのは放火魔ということになる。唖然としながら、燃え盛る店を見る。周りを見渡すけれど、お菊さん達の姿が全然見えない。「まさか、まだこの中に」そう考えると、胸がドクンドクンと鳴ってうるさくなった。
……助けなければ。私が、助けなければ。
私は意を決して、燃えている山本家の中へと入ろうと足を運んだ。けど、それは男性に腕を掴まれ、できなかった。



「放してください!! 此処は私の家なんです!! まだ、お菊さん達が……!!」
「落ち着け!! さっき何人かの死体が確認された。その死体は、この山本さんの家族のものだと確認されたんだ」



男性の言葉に、私は騒ぐのを止めて唖然とする。「残念だが、もう山本さん達はいない」そう言って、男性は私の背中を優しく撫でた。先程よりも心臓がうるさくなる。ドクン、ドクン、ドクン。受け入れたくない現実、受け入れなければならない現実。いまだに燃え盛る山本家を見ながら、私は拳をぎゅっと握る。



「……嘘、だ……」



目から溢れだす大量の涙。それを止めることは、今の私には出来ない。だって、私が店を出るまではあんなに元気に店を営んでいて……。「行ってらっしゃい」って言ってくれて……。



「嫌だ……、嫌だ嫌だ嫌だ……!! なんでよっ……!!」



涙が流れる目をおさえてしゃがみ込む私。やっと手に入れた、私を信じてくれる大切な家族。家族を再び失うことになるなんて思わなかった。これからどうしようか。また一文無しに、独りになってしまった。……いっそのこと私も死んでしまおうか。そうだ、それが良い。だって、私にはもう何もないもの。泣きながらも死を決意したそんな時、頭を優しく撫でられた。急な事に思わず、ビクッ、と反応してしまった。



「――…私のところに、来るかい?」



先程私を止めた男性とは違う声。その声は、まるで赤子をあやすような優しく穏やかだ。私はゆっくり涙で滅茶苦茶になっている顔を上げ、その声の主を見る。そこには、太陽のような温かいぬくもりをもった微笑んだ男性が居た。



(誰なのか分からないのに、)
(その男性の顔を見た瞬間、酷く安心した…――)


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -