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「知らない人が来ている」という恐怖に、俺の袖を掴んで「せ、先輩!!? 何してるんスか!!?」と慌てている後輩の赤也。けど、その声が誰であるのか気づいた俺は、先程震えていたときとは比べものにならない程冷静で、落ち着いている。



「大丈夫だ」



俺の言葉に、赤也は意味が分からないのか困惑した表情をする。ふと、千鶴が幸村の元から俺の隣に来る。今まで震えていた千鶴が立ちあがったことに、幸村が驚きを隠せずに「千鶴……?」と小さく千鶴の名前を呼ぶ。千鶴はというと、檻に手をかけて俺と同じように二人の名前を呼んだ。



「伊織ちゃん!! 三篠さん!! こっち!!」



俺より大きな声で、千鶴が二人の名前を呼ぶ。その事に、俺も幸村達も吃驚している。きっと千鶴は、あの二人が助けに来てくれたと感づいたのだろう。俺と千鶴の声が届いたのか、此方に向かってくる足音が聞こえた。「龍!!? 千鶴ちゃん!!? 何処!!?」と先程より大きく、伊織の声が聞こえた。もう少しだ。



「一番奥だ!!」
「奥……?」



タッタッタッ、と走る足音が近づいて来る。そしてとうとう、伊織と三篠の顔が見えた。



「龍!! 千鶴ちゃん!!」



俺と千鶴の顔を見て、怪我が無いのを確認すると安心した表情になる伊織。その隣には、人間姿の三篠が居た。三篠はいつものように無表情であるが、心なしか安心したような表情をしている。「でも、なんで此処に?」と言う千鶴の疑問には答えず、伊織は「説明は後。とりあえず此処から脱出しなきゃ」と言うと、三篠に顔を向ける。すると、三篠が懐から何かの鍵を取り出す。その鍵を、牢屋の鍵穴にさしこむ。そして、それを回転させてガチャッと音をたてる。



「開いたぞ」



そう言いながら、三篠が牢の扉を開ける。そのことに喜び、次々と足早に牢から出ていく幸村達。俺と千鶴も、それに続いて牢から出た。牢を出た俺は改めて伊織の顔を見る。「久しぶりだな」と声をかけたいところだが、伊織の表情は真剣そのものだった。



「龍、悪いけど、ここから先は龍を先頭に逃げてもらって良い?」
「は? それ、どういう事だよ?」
「私と三篠は、まだ此処に残らなきゃいけないの」
「なっ……!! 二人を置いて逃げろってのかよ!!?」



せっかく、また会えたのに。
俺は、伊織の両肩を勢いよくガシッと掴む。そのことに、一瞬だが伊織の顔が歪んだ。勢いあまって自分でも少し驚く程力が入ってしまったようだ。本当は謝りたいのだが、今はそのことより心配が故の怒りのほうが勝っている。



「何でお前は昔から無茶ばっかすんだよ!! 少しくらい、俺を頼ったって良いだろう!!?」



そうだ。お前は昔から、俺がいるのに一人で抱え込んで、一人で解決しようとしてきた。辛そうで泣きそうなお前を見る度、俺は自分が不甲斐なく感じた。どうして、俺を頼ってくれないんだ。そう思っていると、伊織が「……頼ってるから、先頭をお願いしたの」と普段のふんわりとした声ではなく、凛とした声で静かに言った。伊織の言葉に、俺は目を丸くする。頼ってる……、伊織が、俺を……?



「私の他に、まだ味方が居る。その人達が危険かもしれない」
「だ、けど……!!」
「その人達は、私の我が儘に付き合ってくれたの。……お願い、龍」



悲しそうな伊織の表情に、何も言えなくなってしまう。自然と力が抜けて、伊織の肩から手が滑り落ちる。「また、アレ絡みなんだな?」と聞くと、「うん」と頷かれた。”アレ”というのは、当然”妖”のことだ。伊織は昔から”妖”絡みになると無茶をする奴だった。正直、このまま伊織と三篠を置いて逃げるのは不安で心配なんだが、……今、千鶴や幸村達を守れるのは俺しかいない。



「……伊織、怪我したら怒るからな」



俺の言葉に、伊織は驚いた表情を浮かべるが、すぐに嬉しそうに微笑む。「俺はこの笑顔に弱いんだよな」としみじみ思いつつ、伊織の頭を優しく撫でる。伊織は一瞬驚いた表情をするが、すぐに照れてようにはにかんだ。



「私達が退路をつくる。その隙に逃げるんだぞ」



歩きはじめる三篠に、伊織も慌てて歩き出す。俺達も、それに着いて行った。牢屋の部屋の扉を少し開け、周りに敵が居ないか確認する三篠。敵が居ないのか、三篠は扉を完全に開けて走り出した。当然、俺達も走り出す。




 ***




地下から一階にあがると、大人の男達が気絶しているのか倒れていた。そのことにも驚いたが、その中心にいるのが、一人の銀髪の少年とブサイクな猫、そして、黒猫姿のヒノエ。こんなに大人数の大人を気絶させただなんて……。



「そっちは無事だったみたいだな」



男なのに女みたいな顔をしている銀髪は、綺麗に微笑みながら伊織に言った。その事に「うん、ありがとう」伊織も微笑み返す。そして、伊織が銀髪の奴に駆け寄る。



「知ってる人達とは会えたのか?」
「会えたよ。本当にありがとう、貴志」
「お互い様だろ?」



仲良さそうに笑い合う二人。なんだか伊織が遠くに行ったような気がして、寂しくなった。昔なら、アイツの隣は俺って決まってるような感じだったのに。いつの間に別の男と……。伊織が幸せなのは良い事なんだけどなー……。でも伊織の親友は俺だし。そこは譲れねえ。


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