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「――いらっしゃい、夏目貴志君、橘伊織さん」



モヤモヤとした気持ちのまま伊織と銀髪を見ていると、誰かの声がした。その声があまりにも跡部と似ていて、俺は思わず跡部をバッと見る。それは、他の奴等も同じで、俺と同じようにしていた。



「アーン? 俺じゃねぇよ」



「心外だ」とでも言いたそうに眉間に皺を寄せて言う跡部。……そりゃそうだよな。跡部は後ろに居るのに声は前方からしたし。俺達が改めて声のした方へ顔を向けると、そこには長髪の目に包帯をした男が立っていた。俺でも分かるほど、あの男が纏うオーラは異様だ。



「……伊織、あの人達を連れて逃げてくれないか?」



銀髪の言葉に、伊織が「え……」と声を漏らしながら銀髪を見る。それは俺達も同じだ。「何を言っているんだアイツ」と思いながらも銀髪を見る。伊織は泣きそうな顔で銀髪の腕を両手でみ、銀髪の名前を呼ぶ。



「伊織、ごめん。でも、大丈夫だから。絶対に帰るから。……行ってくれ」



今にも泣きだしそうな伊織の頬に手を添える銀髪。そいつは、愛おしそうに伊織を優しく抱きしめる。しばらくして、伊織を放し、穏やかな笑みを浮かべる。まだ納得していないであろう伊織だったが、ずっとこのままではいけないと思ったのか「うん」と頷く。そして、黒猫姿のヒノエを抱きかかえると「行こう!!」と俺達にそう言って三篠と共に走り出した。俺達も、慌てて伊織と三篠を追いかける。




 ***




「おやおや、伊織さんにも用があったのですが、逃げられてしまいましたか」



伊織達が逃げた方を見て言う的場さん。残念そうに言う的場さんだったが、その表情は微笑んでいる。「……何を企んでるんですか?」と的場さんを睨むが、的場さんは未だ余裕の笑みで「そんなに怒らないでください」と言う。相変わらず食えない人だ。



「あの人達を攫ったのは、俺達をおびき寄せる為ですか」
「ふふ、その通りです。夏目貴志君、我々と手を組みませんか?」



的場さんの言葉に、俺は眉間に皺を寄せる。的場さんと手を組むということは、妖を殺す手伝いをするということだ。……そんなの、俺も伊織も望まない。



「お断りします。俺は、妖を倒したくなんかない」
「……それは残念ですね……」



眉を少し下げて困った表情をする的場さん。そして、無表情になった。そのことに身構えると、的場さんが「行きなさい」と小さく呟く。すると、的場さんの後ろから数えきれない程の式神が出てきた。その式神達はあっという間に俺とニャンコ先生の周りを囲む。



「ッ……!!?」
「チッ、厄介な事になったな……」



目を細めるニャンコ先生。俺も、自然と更に眉間に皺が寄っていた。このままでは、さすがにマズイ……。一体、どうすれば…――


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