其の五



あれから皆さん大いに騒ぎ、大半は酒で酔い潰れて寝てしまった。
眠くなった私は旦那様と共に、これから過ごすことになる部屋に来た。
その部屋には既に大きな布団が一人分敷かれていて、「ああ、そうか」と呑気に思う。
これが何を意味するかは、夫婦になったのだからよく分かる。
でも心の準備が……。



「俺はお頭達を見てくる。先に寝ていてくれ」



旦那様の言葉に、私は内心「えっ」と思う。
え、だって、え、一緒に寝るんじゃないの……?
慌てて旦那様を見ると、旦那様は既に歩き出して私に背を向けていた。
一人になってしまい、急に孤独感に見舞われる。



「……思ってたのと違う……」



結婚するにあたって、母上から色々聞いてきた。
まず夫婦になった初夜は、その、子作りをするものだ、と。
これはどこの家でも同じで、早く子供を作る為らしい。
だがしかし、私の今の状況はなんだ。
心の準備が出来ていなかったから幸いといえば幸いだけど、……夫婦なんだよね……?
もしかして旦那様は子供が欲しくないとか……?



「寝よ……」



一人舞い上がっていた私が馬鹿だったのかもしれない。




 ***




「あれ? みよ兄、すず姉と一緒に寝ないんですか?」



寝てしまったお頭に布団をかけていると、白南風丸にそう聞かれた。
その言葉に、「……ああ」と少し遅れながらも返事をする。



「ここは俺に任せて、どうぞ一緒に休んでください」
「いや、大丈夫だ。彼女にも言ってある」
「え? でも……」



白南風丸の不思議そうな表情から視線を背け、俺はお頭に呑まされて酔い潰れているお里に布団をかけた。
武家の娘といえども気取っていなくて、人見知りをするのかあまり話さなかった。
彼女の印象はとても良かったが、この結婚は彼女がしたくてしたんじゃない。
自分より身分の低い男に嫁いで、彼女は恥ずかしく思っているだろう。




 ***




「……寝れないっ……!」



ぎゅるんっ、と勢い良く瞼を開ける。
寝ようと布団に入ってから相当な時間が経っていることだろう。
それなのに色々と後ろ向きに考えてしまって、一向に寝れない。
少し気分転換に海でも見てこようかな……。



「よいしょ」



布団から出て起き上がり、昼間来ていた着物を着る。
いつもお里に着付けてもらっていたけれど、やり方を見ていたから自分で出来る。
ささっと着替え、部屋を出て草鞋を履き、海へと向かう。
波の音と、私が歩く度に聞こえる砂浜の音に心が癒されるのを感じた。
はー、月明かりで照らされる海ってキラキラしてて綺麗だな。



「すず姉? どうしたんですか?」



後ろから聞こえてきた声に振り返る。
そこには宴を開こうと言い出した男性が立っていた。
「ちょっと」と言葉を濁すと、男性は追及せずに私の隣に来た。



「多分覚えてないと思うんで、一応もう一回言っておきますね。私、網問っていいます」



網問……。
にぱっ、と笑顔を浮かべる網問に、可愛いな、と思ってしまう。
多分年下だろうけど、いくつくらい離れてるのかな。
そんなことを思っていると、顔に水が飛んできて「ぶふっ!」と変な声を出してしまった。



「っ!?」



驚いて水のかかってきた方に視線を向けると、網問が足だけ海に浸かりながら私を笑顔で見ていた。
手が濡れていて、網問が私に海水をかけてきたのだと分かる。
網問は私を指さし「あははっ、驚いてる」と笑った。
……おのれ……。



「やったなー!」



私も足だけ海水に入り、負けじと思いっきり網問に海水をかける。
私の反撃が予想外だったのか、網問は「うわっ!」と驚いて後方に倒れてしまった。
バッシャーンッ、と音をたてて海水に倒れこんだ網問は、慌てて起き上がると「すず姉ー…」と口を尖らせた。
今度は私が笑う番だ。

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