其の六



昨晩すずを部屋に連れて、その後お頭達の介抱をした。
そんな中、外から聞こえてきた女性の楽しそうな声に、俺はこっそり窓から外を見た。
そこには、少し海水に浸かり水遊びをしているすずと網問がいて、初めて見た満面の笑みのすずに胸が高鳴った。
それと同時に、俺には見せなかった笑顔に複雑な感情が芽生える。



「あ、おはようございます」



朝起きたら、彼女が横で寝ていなかった。
「お里がついているか」と思いながらも内心慌てていつものように食堂に行くと、そこには料理を作っているすずが居た。
奥の方にはお里もいて、二人で朝餉を作ってくれているのだと分かる。
薄らと笑みを浮かべながら挨拶をする彼女に、「おはよう」と小さく言う。



「僭越ながら朝餉を作らせていただきました。ほぼお里がやってくれたので味に心配は御無用です」



すずの言葉に、奥で作られている料理を見ると、どれも美味しそうだった。
良い匂いもしてきてお腹が減ってくる。
その時、「わー、良い匂い!」と重が食堂に入ってきた。



「おはようございます!」
「おはよう」
「おはよ」



重の元気な挨拶に返事を返すと、重は作られている朝餉を見て目を輝かせた。
「美味しそー」と言う重の口から涎が少し垂れてきた。
呆れながら「涎」と言うと、重は「だってー」といまだに涎を垂らす。
ったく……、と思っていると、すずが「今義丸さんが皆さんを起こしに行ってくれてるから待ってて」と重に言った。
その言葉を聞き、重が涎を手拭いで拭き取る。



「義兄は女いっぱい作ってますから、すず姉気を付けてくださいね」
「私を狙うわけないよ、既婚者になったし」



苦笑しながら言うすずの言葉に、重は「どうかなー?」と言って俺を見た。
その表情はニヤニヤしていて、何か意味があるのだと分かる。
大方義兄が俺からすずを取るんじゃないか、ということなのだろう。
もしそうなったとしても、彼女の意志ならば俺は何も言わない。
「余計なお世話だ」と言えば、重は「みよ兄ノんないなー」と口を尖らせた。



「もうすぐ出来ますから、座って待っていてください」



すずはそう言うと、奥に行ってお里の手伝いを始めた。
そんな彼女を見届け、俺と重はいつも朝餉を食べている場所に座る。
女性の手料理を食べるのは、最近では忍術学園のおばちゃん以外に無い。
しかも自分の妻ともなれば嬉しいが……、彼女はこれで幸せなのだろうか。



「みよ兄ってすず姉と上手くやってます?」



重のいきなりの言葉に、思わず「は?」と言ってしまう。
ガンを付けるわけじゃなく、ただ驚いてしまっての言葉だ。
恐らくアホ面の俺を見ながら、重は頬杖をする。



「だって昨日の夜一緒にいなかったじゃないですか」



「せっかくの初夜なのに」と言う重に、確かに、と自分でも思う。
彼女には酷いことをしてしまったかもしれないが、あのまま行っても彼女には酷だろう。
好きでもない男と夜を添え遂げるのは、そんな容易なことではない。
「余計なお世話だと言ってるだろ」と重の額にデコピンすると、重は痛みに額をさすった。
しかし、その表情は納得していないものだとすぐに分かる。



俺がもっと身分の高い男だったら、彼女と釣り合えたのだろうか。

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