普段着ている着物と違って、白無垢は頭が重いし動きづらいし暑い。
今すぐにでも脱ぎたいが、母上の「綺麗ね」と泣きながら言う姿を見てしまっては……。
それに今から婚儀が始まる。
まだ夫になる人とは会っていないけれど。
「すず、まさかお前が結婚するとはな」
「一生独り身かと思うたのに」
私をからかう兄上方の言葉に、「フンッ」とそっぽを向く。
そんな私に兄上方はケラケラと笑う。
まるで酒を呑んで酔っているかのように気分が良い二人。
そんなに私の結婚が嬉しいのか……。
「すず、来たぞ」
夫になる人を出迎える為に席を外していた父上が戻ってきた。
その言葉に、私も兄上方も姿勢を正す。
父上以外の足音が聞こえ、慌てて手を添えて頭を下げる。
頭を下げながらも目を開けた状態で待っていると、隣に誰かが座った。
「面を上げよ」
父上の言葉に、私は顔を上げる。
隣に座ったのが私の夫になる人なのだろうが、此処からでは顔が確認出来ない。
ただ兄上方の「ほう」「良い男だな」という会話が聞こえ、顔は良いのだと分かる。
「盃を」
父上の言葉に従って、私も隣の男性も盃を持つ。
お里が空の盃にお酒を入れてくれ、隣の男性も酒を注いでもらったのを確認し、ゆっくりとお酒を呑む。
少し中身が残っている盃をお里を手渡すと、お里はそれを持って下がった。
これで一応晴れて夫婦となったわけだ。
兄上方のどんちゃん騒ぎが開始される中、私は隣の男性を横目で盗み見る。
「……、」
本当だ、顔が整ってる。
あ、頬に傷……、それに釣り目。
その時、あちらも私に視線を向けた為、バチッと視線が合ってしまった。
驚いていると、彼が私の方に少し体を向ける。
「舳丸と申します」
「え、あ……、すずです……」
夫になったのにどうして私に敬語なんだろう。
戸惑ってしまい、次の言葉が思いつかない。
何か話題、話題……、と頭の中で探していると、舳丸様は体を戻してしまった。
あっ……、とは思ったが、私も諦めて体を戻す。
「すず、舳丸、着替えてきて良いぞ。その格好では窮屈だろう?」
ほろ酔い状態で私達に言う父上。
舳丸様はその言葉に「はい」と言うと、頭を下げて部屋を出て行った。
不愛想というかなんというか……。
私ちゃんとやっていけるかな……、と不安になりながらも、私も立ち上がって部屋を出た。
***
「すず様、お疲れのようですね」
「いやー、もー、凄い不安」
お里にいつもの着物に着付けてもらいながら着替える。
歳は近そうで、顔も整っていた。
けれど、性格はどうも接しづらくて声をかけることができない。
こんなんで、ちゃんと夫婦になれるか分からない。
「このお里がお側におります、気を楽になされませ」
「んー、頼りにしてるよー」
気だるそうな表情でそう言うと、お里は笑みを浮かべながら「はい」と言ってくれた。