其の二



「――ようやっと着いたな」



私の言葉に、侍女のお里が「左様にございますね」とニコニコしながら言う。
私にとっては長い道のりだった。
馬に乗っていても、ずっと座り続けているとお尻が痛いのなんの。
「さあ、開けるぞ」とお里に声をかけ、忍術学園の門に触れる。
しかし、



「すず姉!?」



横から聞こえた声により、門を開けることが出来なかった。
聞きなれた声に、せっかくの出だしを……、と思いつつ顔を声のした方に向ける。
そこにいたのは案の定、私が会おうと思っていた滝夜叉丸。
しかし意外だったのが、横には友人らしき者が四人いることだ。



「何故ここにおられるのですか! まさか、お家で何か!?」
「まあ、少し」



私の言葉に、滝が「なんですとォ!?」と慌てふためく。
相変わらず騒がしい奴だな。
そんなことを思いつつも、「大したことじゃない」と言い、滝を宥める。
しかし静まる様子のない滝に、「それよりも」と言いつつ、滝の友人四人に視線を向けた。
私の視線に気づき、滝が「ああ、紹介します」とやっと落ち着いた。



「滝夜叉丸の同室の、綾部喜八郎でーす」
「忍術学園のアイドル、田村三木ヱ門ですっ!」
「斉藤タカ丸ですー」
「浜守一郎です!」



のんびり屋に、アイドルに、癒し系に、熱血系。
アイドルって言った田村がどこか滝と似ているな。
類は友を呼ぶっていうし、他の三人にもどこか共通点があるのかもしれない。



「私はすず。こっちは侍女のお里」



お里が頭を軽く下げると、四人も軽く頭を下げた。
お互いに自己紹介を終えたところで、滝が「それで、御用は?」と私に聞いてきた。
その言葉に「あー、それがな、」と言いつつ本題に入る。



「実は結婚することになった」
「はあ、なるほど……、えっ!? あのすず姉が!?」



面白いくらい反応する滝に「うん」と軽く返事をする。
今まで縁談を断り続けてきたのを知っているから、今回承諾したのに相当驚いているんだろう。
私が逆の立場でも相当驚くと思う。
滝の「もしや風邪をひかれたのでは」という言葉に「いや、違うから」とツッコミを入れ、口を開く。



「昨日私も聞かされてな、婚儀が三日後とのことだ。流石に私も拒否出来なかった」
「そ、それは確かに急ですね……。相手の男性はどういう人なのですか?」
「ああ、それが”海の男”としか聞かされていない」



私の言葉に、滝の目が点になる。
私達の話を聞いていた綾部も「それは大変そうですねえ」とのんびり言った。
実際は大変どころの話ではないんだろうけれど。



「それにしても、あれ程までに結婚が嫌だったすず姉が結婚とは……」
「どうしてそんなに嫌だったんです?」



「やっとだ」という表情の滝に、疑問を言う浜。
おっと、聞かれると思ったことが本当に聞かれるとは。



「だってほら、姑怖いし」



私の言葉に、全員が「はっ?」と言う。
お前等全員姑の怖さが分かっていないようだな……。
姑というのは何かにつけてネチネチネチネチ嫁を攻撃してくるものだ。
子を産んだら子を取り上げられそうだし、恐ろしすぎる。



「さて、滝に報告したことだし、帰るか」



そうお里に言うと、斉藤が「えっ、もう帰っちゃうんですか」と言ってくれた。
初対面でそう言われると正直素直に嬉しい。
しかし、あまり遅くなると父上に怒られてしまう。



「今度また暇な時に来るよ」
「いや、もう来なくて良いんですが」
「お? そう言われるとすぐに来たくなるなあ」



ケラケラ笑うと、滝は「いや危険ですから」となぜか疲れた表情で言った。
まあ結婚したら次いつ来れるか本当に分からないし、もしかしたら二度と会うことができないかもしれない。
その為に今回は報告と顔を見に来たのだが、滝は大人びたこと以外は変わらないようだ。
別れを告げようとした時、「あ、あのっ」と声をかけられた。



「次お会いした時、髪を触らせていただけないでしょうかっ?」



興奮した様子で私にそう聞く斉藤。
「良いけど……」と言うと、斉藤は「有り難う御座います!」と目を輝かせて言った。
どうしてそんなに興奮しているのか私では分からない。
思わず首を傾げると、田村が「タカ丸さんのお父上が髪結い師なんです」と教えてくれた。
あー、それで影響を受けて……。



「すず様、そろそろ帰らねば暗くなってしまわれます」
「ああ。では、元気でな」



そう言うと、皆「お気をつけて」と言って軽く頭を下げてくれた。
礼儀正しい子達だな。
踵を返し、お里と肩を並べて来た道を戻る。
「滝元気そうで良かったなー」「左様にございますね」と会話をしながら、お里と帰った。

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