旦那様、お里と共に民達がいる村に着いた。
相変わらず緑が美しく、活気ある村に「何も変わってないなあ」と呟く。
村人達は私達の存在に気付くと、「すず様!」と笑みを浮かべて走り寄って来てくれた。
「お久しぶりにございます!」
「相変わらず元気そうで何よりです」
「御結婚おめでとうございます!」
「ああ、祝儀有り難う。でも皆にも生活があるから、無理はしないでほしい」
私の言葉に、村人を代表する村長が「いやいや」と首を横に振る。
そして「殿様方のおかげで今の生活があります故、当然にございます」と言ってくれた。
しかし、村人達の生活は決して裕福といえるものではない……。
祝儀は本当に有り難いが、もう少し自分達の為にお金を使ってほしいものだ。
「それよりも、そちらの御方は?」
「私の旦那様だ」
「この御方がっ……!」
とてもキラキラした目で旦那様を見る村人達。
「かっこいいな」「凛々しいわ」と言う声が上がり、旦那様は照れながらも戸惑っているようだ。
「良い人で良うございましたな」と笑みを浮かべる村人に、「ああ」と私も笑みを浮かべて頷く。
お里も自分のことのように嬉しいようで、「政略結婚とは思えない程仲睦まじいのです」と言ってくれた。
「そういえばすず様、お吉が子を産んだのです」
嬉しそうに言う村人の言葉に、「お吉が?」と言いながら”お吉”という名の女性に顔を向ける。
確かにその腕には小さな赤ん坊が抱かれていて、生後間もない様子だった。
もしかして幼馴染の次郎と……?
そう思っていると、お吉が「次郎との子です」と言った。やっぱり。
「男の子なのですが、顔が次郎とそっくりで」
「確かによく似ている。でも目はお吉そっくりだな?」
「ふふ、ええ、そうなのです」
穏やかに微笑むお吉は本当に幸せそうで、次郎と結ばれて良かった、と心の底から思う。
思えば次郎は幼い頃から素直ではなかった。
お吉に片想いしていても、好きな子程いじめたくなってしまうのか、悪戯ばかりしていたな。
その度にお吉から「嫌い!」と泣かれて、ショックを受けていたっけ。
どうやってくっ付いたのか、いつか詳しく聞きたいわ。
「で、その次郎は?」
「薪が無くなってしまったので、取りに行ってもらっております」
成程、だから居ないのか。
他にも数人男性の村人が居ないのは、次郎と同じく薪を取りに行っているからかもしれない。
それなら、男手が少なくなって作業も辛くなっていることだろう。
「何か手伝うことはないか?」
「え、すず様を使うわけには、」
「私がしたいんだ」
それに、今ではすっかり海賊の妻だぞ。
そう言うと、村人達は困ったように顔を見合わせる。
続いて「私も手伝います」「では、お里も」と旦那様とお里が言う。
私達の言葉に、村長は「では、お願い致します」と控えめに言った。
***
村人達の仕事を手伝い、すっかりヘトヘトでボロボロになってしまった。
村人達は「申し訳ございません」と謝ったが、願い出たのは私達の方。
後で褒美をやるように父上に言わなければ。
「あ、おっそーい」
「待ちくたびれたぞぉ」
屋敷に戻ると、宴を開いていたのか、多くの家臣達が酔い潰れていた。
兵庫水軍も酔っているのは同じで、私達を見つけた航と義丸さんがヘラッと笑みを浮かべて言う。
「呑み過ぎです」と旦那様が言うが、義丸さんは「お前も呑むか?」と話を聞いていないのは丸分かり。
全くもう……。
「二日酔いになってしまいますよ?」
「すずー、膝枕ー」
「ちょ、」
義丸さんに、ぐいっと腕を引っ張られる。
驚いて転びそうになってしまったが、間一髪のところで旦那様が私の体を支えてくれた。
あ、あぶなー……。
義丸さんはそのまま寝てしまい、私達は皆さんの介抱をし始める。
時々絡まれながらも、夜はどんどん更けていった。