其の十九



旦那様、お里と共に民達がいる村に着いた。
相変わらず緑が美しく、活気ある村に「何も変わってないなあ」と呟く。
村人達は私達の存在に気付くと、「すず様!」と笑みを浮かべて走り寄って来てくれた。



「お久しぶりにございます!」
「相変わらず元気そうで何よりです」
「御結婚おめでとうございます!」
「ああ、祝儀有り難う。でも皆にも生活があるから、無理はしないでほしい」



私の言葉に、村人を代表する村長が「いやいや」と首を横に振る。
そして「殿様方のおかげで今の生活があります故、当然にございます」と言ってくれた。
しかし、村人達の生活は決して裕福といえるものではない……。
祝儀は本当に有り難いが、もう少し自分達の為にお金を使ってほしいものだ。



「それよりも、そちらの御方は?」
「私の旦那様だ」
「この御方がっ……!」



とてもキラキラした目で旦那様を見る村人達。
「かっこいいな」「凛々しいわ」と言う声が上がり、旦那様は照れながらも戸惑っているようだ。
「良い人で良うございましたな」と笑みを浮かべる村人に、「ああ」と私も笑みを浮かべて頷く。
お里も自分のことのように嬉しいようで、「政略結婚とは思えない程仲睦まじいのです」と言ってくれた。



「そういえばすず様、お吉が子を産んだのです」



嬉しそうに言う村人の言葉に、「お吉が?」と言いながら”お吉”という名の女性に顔を向ける。
確かにその腕には小さな赤ん坊が抱かれていて、生後間もない様子だった。
もしかして幼馴染の次郎と……?
そう思っていると、お吉が「次郎との子です」と言った。やっぱり。



「男の子なのですが、顔が次郎とそっくりで」
「確かによく似ている。でも目はお吉そっくりだな?」
「ふふ、ええ、そうなのです」



穏やかに微笑むお吉は本当に幸せそうで、次郎と結ばれて良かった、と心の底から思う。
思えば次郎は幼い頃から素直ではなかった。
お吉に片想いしていても、好きな子程いじめたくなってしまうのか、悪戯ばかりしていたな。
その度にお吉から「嫌い!」と泣かれて、ショックを受けていたっけ。
どうやってくっ付いたのか、いつか詳しく聞きたいわ。



「で、その次郎は?」
「薪が無くなってしまったので、取りに行ってもらっております」



成程、だから居ないのか。
他にも数人男性の村人が居ないのは、次郎と同じく薪を取りに行っているからかもしれない。
それなら、男手が少なくなって作業も辛くなっていることだろう。



「何か手伝うことはないか?」
「え、すず様を使うわけには、」
「私がしたいんだ」



それに、今ではすっかり海賊の妻だぞ。
そう言うと、村人達は困ったように顔を見合わせる。
続いて「私も手伝います」「では、お里も」と旦那様とお里が言う。
私達の言葉に、村長は「では、お願い致します」と控えめに言った。




 ***




村人達の仕事を手伝い、すっかりヘトヘトでボロボロになってしまった。
村人達は「申し訳ございません」と謝ったが、願い出たのは私達の方。
後で褒美をやるように父上に言わなければ。



「あ、おっそーい」
「待ちくたびれたぞぉ」



屋敷に戻ると、宴を開いていたのか、多くの家臣達が酔い潰れていた。
兵庫水軍も酔っているのは同じで、私達を見つけた航と義丸さんがヘラッと笑みを浮かべて言う。
「呑み過ぎです」と旦那様が言うが、義丸さんは「お前も呑むか?」と話を聞いていないのは丸分かり。
全くもう……。



「二日酔いになってしまいますよ?」
「すずー、膝枕ー」
「ちょ、」



義丸さんに、ぐいっと腕を引っ張られる。
驚いて転びそうになってしまったが、間一髪のところで旦那様が私の体を支えてくれた。
あ、あぶなー……。
義丸さんはそのまま寝てしまい、私達は皆さんの介抱をし始める。
時々絡まれながらも、夜はどんどん更けていった。

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