其の二十



「いやあ、このお茶美味しいな」
「なんで居るんですかすず姉。それに舳丸さんとお里まで」



呑気にお茶を飲みながら言う私に、滝がそう言った。
私が「来ちゃった」と笑いながら忍術学園の滝の部屋に訪れたのはついさっきのこと。
今日はお頭が忍術学園に用があるというので、滝に会いに私も忍術学園に来てしまった。
旦那様が居るのは、道中何かあると危ないから、という理由で。
お里はいつものように私の御付きだから。



「これ美味しいですよ」
「有り難う」



「どうぞ」と三色団子をお勧めしてくれる綾部。
お礼を言いながら早速三色団子を貰って一口食べると、美味しい味が口いっぱいに広がった。
綾部は「美味しそうに食べますねえ」と言い、自分も三色団子を一口食べる。



「ところで、第三協栄丸さんは何の御用だったんでしょうか?」
「補習授業で海賊についてお話しをするそうです」



滝の疑問に、お里が変わりに答えてくれる。
私自身何故お頭が忍術学園に来たのか知らなかったから、お里が答えてくれて良かった。
これで「知らない」なんて言っていたら、滝にまた呆れられるだろうて。
ふと、隣にいる旦那様が三色団子を食べていないことに気付いた。



「旦那様、食べないのですか?」
「甘いものは……」



私の問いに、旦那様は顔を渋らせながら言った。
そういえば旦那様が甘いものを食べるところを見たことがなかったな。
重や網問や航辺りが食べているところはいつも見ているが。
この美味しさを旦那様とも共感したかったなあ。
と、その時、外から「滝夜叉丸せんぱーいっ」と滝を呼ぶ声が聞こえた。



「どうした、金吾?」



障子を開けて外に向かって聞く滝。
外には、まだ幼い男の子が居て、何故か疲れた様子だ。
金吾と呼ばれた男の子は「七松先輩があ……」と涙目で言うと、滝は溜め息をついて「またか……」と呟く。
そして、「ちょっと行ってきます!」と言うと、滝は男の子を引っ張ってどこかに行ってしまった。



「どうしたんだ……?」
「きっと七松先輩が何かやらかしたんでしょう。いつものことです」



綾部は旦那様の言葉にそういうと、煎餅をボリボリ食べ始めた。
あの自惚れ滝が疲れた顔をするなんて余程七松先輩とやらが凄まじいんだろうな。
そう思っていると、お里が「あの子どこかで見たような……」と頬に手を当てながら呟いた。
しかし思い出せないようで、首を傾げて腑に落ちない顔をする。
確かに私も見たことがあるような、ないような、少し引っかかるところがある。



「あ……、ああ、思い出しました。確か武衛殿に御座います」
「誰?」
「殿の御友人で、すず様も幼い頃にお会いしておりまする」



お里の言葉に、私は幼い頃の記憶を思い出そうと眉間に皺を寄せる。
ぼんやーりとは思い出せるが、ハッキリとは思い出せない。
私が思い出している中、「もしや武衛殿の御子息では?」「ええ、そうです」と会話をするお里と綾部。
……駄目だ、全然思い出せないや。



「御父上様は顔が広いな」
「腹黒いだけですよ」



苦笑しながら言うと、旦那様は「策士だな」と笑みを浮かべる。
その時、「帰るぞー」と言いながら補習授業を終えたお頭が現れた。
滝が戻ってきていないが、仕方ない、あまり長居しては迷惑になる。
旦那様が立ち上がり、私も立ち上がろうとするが、すかさず旦那様が手を差し伸べてくれた。
着物は立ち上がる時に少々難儀なもので、差し伸べられた手がとても有り難い。
その手を取って立ち上がり、「有り難う御座います」と旦那様にお礼を言うと、「いや」と小さく言う旦那様。



「ほんと、お二人はお似合いですねえ」



そう言う綾部に視線を向けると、綾部は珍しく笑みを浮かべていた。
旦那様に視線を向けると、調度視線が交わり、それが照れくさくて笑う。
旦那様も照れているのか、顔を赤くしながら背けてしまった。

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