最終話



「どうかしたか?」



窓から波と夜空を見上げていると、旦那様にそう聞かれた。
「星空が綺麗で」と言いつつ旦那様に顔を向ける。
そこでハッとし、今から寝るのだということを思い出す。



「申し訳ございません、すぐにそちらに」



布団の上で座って待っている旦那様に、そう言い近寄る。
正面に座って旦那様を見ると、旦那様は先程の私と同じように窓から外を見ていた。
「旦那様?」と声をかけると、旦那様は私に視線を戻し「外に出るか」と言った。
もしかして、私が見ていたから気を使ってくれた……?



「ほら、行くぞ」
「え、ちょ、」



旦那様が肩に着物をかけてくれて、手を引っ張って私を立たせる。
そのまま外に連れ出され、草鞋を履いて波の近くまで二人で行った。
風が弱く、波もいつもより静かで落ち着いてる。
空を見上げると、家の中で見たときよりも輝いて綺麗な星が広がっていた。



「綺麗……」



相変わらず、実家にいた時よりもこっちの方が綺麗だ。
月明かりで海が照らされる為、余計輝いて見えるのかもしれない。
ふと、旦那様が私の手を掴み、「冷えてるな」と言った。
「外に出ておりますから」と返事をすると、旦那様は私の手を持ち上げて自分の掌と私の掌を合わせる。



「……随分小さいな」
「旦那様が大きいんです」



ふふ、と笑いながらペチペチと旦那様の掌を叩く。
旦那様は「やめろ」と笑うと、私の指の間に自分の指を絡めた。
大きくて、ゴツゴツしていて、暖かくて、私の手をいとも簡単に包み込む。
伝わる優しい体温が嬉しい。
私は、これからもずっと、旦那様の隣に居て良いんですよね。



「旦那様、」
「ん?」
「愛しております」



私から言うのは初めてかもしれない。
旦那様は私の言葉に少し驚くが、すぐに笑って「知っている」と言った。
そして、「だが、俺の方が愛してる」と言うものだから、思わず笑ってしまった。
本当、こういう時はお茶目で可愛い人なんだから。



「子供の名前、何が良い?」



その言葉に「まだ出来てもいないのに?」と聞くが、「いずれは出来る」と言われた。
なんて気の早い、と笑うが、どうやら旦那様は本気の様子。
旦那様は思いつく限りの名前を言っていくが、それはどれも女の子の名前ばかり。
そうか、旦那様は娘が欲しいんだなあ。
「嫁ぐ時は悲しくなりますよ?」と笑いながら言うと、旦那様は「それはまずいな……」と呟く。



「私は旦那様に似た息子が欲しいです」
「いや、お前に似た娘だろう。……だが、どちらでも生まれたら可愛がるんだろうな」



私の頬を撫でながら言う旦那様に、「そうですね」と笑みを浮かべる。
私達に子供が出来たら、二人とも子供を大層可愛がるのだろう。
私達だけじゃなくて、お頭達や、父上達や、会うことになれば滝も。
息子だったら兵庫水軍に入ったり、娘だったら娘の意見を尊重して誰かに嫁いだりして。
少しずつ家族を増やしながら、そうやって旦那様と過ごしていけたら、どんなに幸せだろう。



「そろそろ中に入ろう。風邪をひく」
「はい」



旦那様と手を繋ぎながら歩き出す。
足元を見ると、ザッザッ、と音をたてながら旦那様と私の足跡が砂浜についていっていた。
これからもこうやって、二人で歩いて行けるんだなあ。
顔を上げ、旦那様の後ろ姿を見て、とても愛おしさを感じる。



旦那様、私はやっぱり、貴方に嫁いで後悔などありませんよ。
きっと、これからもずっと。



不器用な愛の形

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