其の十七



一晩経ち、蜉蝣さんから「いずれ客人が来る」と言われたのはお昼頃だった。
少しの腰の痛さが気になりつつも、お里と一緒に昼餉後の食器を洗う。
その時、突然「初めまして」と足元の方から聞こえてきた。
お里と一緒に視線を落とすと、そこには可愛らしいおかっぱ頭の女の子が。



「カメ子と申します」



礼儀正しく頭を下げる女の子。
慌てて「すずです」「お里に御座います」と自己紹介をする私とお里。
カメ子と名乗った女の子は、私達の言葉を聞いてニコッと笑みを浮かべ「宜しくお願いします」と言う。
もしや、この子が蜉蝣さんの言っていた客人だったりするのだろうか。
だとしたら、一体どこで知り合ったんだ……?



「白南風丸様の言う通り、働き者で美しい人なのですね」



え、何この良心の塊みたいな子は。
自分の性格が悪いと分かっているだけに、この子の穢れていない笑顔と言葉に胸が痛む。
さり気なく白南風丸のこと立ててるし!
ありがとう白南風丸、出来た若者だよお前は!



「私も将来はすず様のように、良妻になれたら良いのですが」



その歳で良妻という言葉を知っている時点で良妻になれる素質あるよ!
っていうか私良妻じゃないからね!
カメ子の言葉を聞き、お里が「まあ」とクスクス笑みを浮かべる。



「私なんて、ほら、全然まだまだだし、良妻じゃないよ」



苦笑しながら言う。
しかし、カメ子は「そうでしょうか?」と首を傾げ、私の手に視線を向ける。
そして、私の手に触れ、軽く持ち上げた。
実家にいたときと違い、少し手荒れしている私の手をさすり、カメ子は口を開く。



「武家の生まれだと聞きました。それなのに、手荒れをしてまで皆さんの為に頑張っているすず様が良妻ではないわけがありません」



……凄く、凄く清らかな心を持っているようだ。
初対面の幼子に言われ、嬉しさのあまりカメ子をぎゅっと抱きしめる。
「有り難う」とお礼を言うと、カメ子も私のことを抱きしめてくれた。
なんて良い子なんだ。




 ***




あれから少し話をして、カメ子は鬼蜘蛛丸さんの元に行ってしまった。
お里は野菜の買い出しに行くようで、私は一人で居間へと向かう。
引き戸を開けて中に入ると、お菓子を食べながら義経と遊んでいる網問、間切、東南風、航の姿があった。
四人は私に気付き、義経を抱いている航が、義経の手を挙げさせながら「すず姉」と言った。



「私、カメ子宗教なるものがあったら入ろうと思う」



空いている場所に座りながら真顔でそう言う私。
間切は「何があったんですか」と言い、網問は「どうどう」と言いながら私の口に饅頭を突っ込んだ。
私馬じゃない、と思いながらも口に突っ込まれた饅頭をもぐもぐ食べる。
あ、この饅頭美味しいな。



「さっきカメ子と会ってきたんだけど、あの子心が清らかすぎて自分の惨めさを実感した」



項垂れる私に、「あー」と納得したように言いながら私の頭を慰めるように撫でる網問。
航は航で、抱いていた義経を私の膝の上に置いてくれる。
義経は私の膝の上で足をフミフミすると、うずくまって寝る態勢を取った。
お前は呑気だなあ、と心の中で言いながら、義経の頭を撫でる。



「ですがすず姉もたくさん良いところありますよ」



そう言ってくれる間切に、「そうかなあ」と半ば諦めながら言う。
間切曰く、明るく元気、親しみやすい、髪の毛さらさらなところが良いのだそうだ。
その三つなら他の女性でも探せばすぐに見つかりそうなものだが。
しかし続きがあるようで、「何より、」と間切が口を開いた。



「身分関係なく接する態度が一番の魅力だと思います」



間切の言葉に、私は義経の頭を撫でる手を止める。
隣にいる東南風に義経を渡し、間切の頭を撫でながら「間切は良い子だな」と笑って言う。
間切は顔を真っ赤にさせると、「や、やめてくださいっ」と私の手を掴んで頭から離す。
可愛い奴め、と思っていると、網問が「顔真っ赤ーっ」と間切をちゃかし始めた。
網問と間切のやり取りを微笑ましく見ていると、



「俺も、間切と同意見です」



と東南風が小さく言った。
その声は私にしか聞こえていないようで、網問と間切は二人で騒ぎ、航は二人を見て笑っている。
東南風の頭をこっそり撫でると、東南風はまんざらでもないようで、照れながらも大人しく撫でられていた。

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