其の十六



父上が帰られて、私達は床に就くことにした。
今までのように何も起きることなく就寝する、……はずだった。
敷かれた布団の上で、旦那様が改まって正座をし、私を見上げた。
私は慌てて旦那様の前で、同じように正座をする。



「旦那様?」



いつもと様子が違う旦那様に、私は顔を覗き込みながら名前を呼ぶ。
旦那様は私の両頬に両手を添えると、「すず」と私の名前を呼んだ。
それが、今日口吸いされた時を思い出させる。
顔が熱くなるのを感じ、慌てて「旦那様っ!?」と旦那様を呼ぶけれど、返事はない。
そして……、



「っ!」



本日再びの口吸いをされた。
えっえっ、何で今日そんなに積極的なの!?
驚いて固まっていると、旦那様はゆっくりと唇を離し、私に視線を下した。
明らかに硬直している私に、フッと優しい笑みを浮かべる旦那様。
っ……、わ、笑った……!



「ずっと俺は、お前に釣り合わないんじゃないかと思っていた」



突然言われたその言葉に、私は「そんなこと……」と声に出す。
だが、確かに立場は私の方が上だった。
旦那様は旦那様で、色々思うところがあったのか……。
それを私は、愛されていないと、私じゃ駄目なのかと、勝手に思い込んでいた。



「だが御父上様の言葉を聞いて、俺がお前の隣に居て良いんだと分かった」



そう言い、私を優しく抱きしめる旦那様。
いつもよりも随分近い距離に、うるさい心臓の音が聞こえてしまわないか、と心配だ。
珍しく甘える旦那様、答えるように私も旦那様の背中に腕を回す。
旦那様、もしかして、ずっと我慢なされていたのですか?
それならば、



「いつでも手を出してくださって構わなかったのに。私、待ってたんですよ」



笑みを浮かべながら言うと、旦那様に「本当か?」と聞かれる。
「勿論」と頷けば、急に旦那様に肩を押された。
「わっ」と驚きながら、私の体は後ろに倒れ、私の上に旦那様が馬乗りになる。
……あ、れ……、コレってもしかして……。
これから行われることを想像してしまい、顔が熱くなり混乱してきた。



「ま、待ってください! ちょ、心の準備まだっ……!」
「いつでも手を出して良いんだろ?」



旦那様は悪戯をするかのように笑みを浮かべた。
〜〜っ……、その顔はかっこよくて素敵だけどっ……!
旦那様を退かそうと両手で旦那様を押し返そうとするけれど、旦那様に両手首を掴まれてしまった。
「あーもー旦那様ーっ」と半ば投げやりに言うが、旦那様は退いてはくれない。
どうしようどうしようどうしようっ……。



「愛してる」



そう言いながら近づいてくる旦那様の顔に、私は恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑った。

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