父上が帰られて、私達は床に就くことにした。
今までのように何も起きることなく就寝する、……はずだった。
敷かれた布団の上で、旦那様が改まって正座をし、私を見上げた。
私は慌てて旦那様の前で、同じように正座をする。
「旦那様?」
いつもと様子が違う旦那様に、私は顔を覗き込みながら名前を呼ぶ。
旦那様は私の両頬に両手を添えると、「すず」と私の名前を呼んだ。
それが、今日口吸いされた時を思い出させる。
顔が熱くなるのを感じ、慌てて「旦那様っ!?」と旦那様を呼ぶけれど、返事はない。
そして……、
「っ!」
本日再びの口吸いをされた。
えっえっ、何で今日そんなに積極的なの!?
驚いて固まっていると、旦那様はゆっくりと唇を離し、私に視線を下した。
明らかに硬直している私に、フッと優しい笑みを浮かべる旦那様。
っ……、わ、笑った……!
「ずっと俺は、お前に釣り合わないんじゃないかと思っていた」
突然言われたその言葉に、私は「そんなこと……」と声に出す。
だが、確かに立場は私の方が上だった。
旦那様は旦那様で、色々思うところがあったのか……。
それを私は、愛されていないと、私じゃ駄目なのかと、勝手に思い込んでいた。
「だが御父上様の言葉を聞いて、俺がお前の隣に居て良いんだと分かった」
そう言い、私を優しく抱きしめる旦那様。
いつもよりも随分近い距離に、うるさい心臓の音が聞こえてしまわないか、と心配だ。
珍しく甘える旦那様、答えるように私も旦那様の背中に腕を回す。
旦那様、もしかして、ずっと我慢なされていたのですか?
それならば、
「いつでも手を出してくださって構わなかったのに。私、待ってたんですよ」
笑みを浮かべながら言うと、旦那様に「本当か?」と聞かれる。
「勿論」と頷けば、急に旦那様に肩を押された。
「わっ」と驚きながら、私の体は後ろに倒れ、私の上に旦那様が馬乗りになる。
……あ、れ……、コレってもしかして……。
これから行われることを想像してしまい、顔が熱くなり混乱してきた。
「ま、待ってください! ちょ、心の準備まだっ……!」
「いつでも手を出して良いんだろ?」
旦那様は悪戯をするかのように笑みを浮かべた。
〜〜っ……、その顔はかっこよくて素敵だけどっ……!
旦那様を退かそうと両手で旦那様を押し返そうとするけれど、旦那様に両手首を掴まれてしまった。
「あーもー旦那様ーっ」と半ば投げやりに言うが、旦那様は退いてはくれない。
どうしようどうしようどうしようっ……。
「愛してる」
そう言いながら近づいてくる旦那様の顔に、私は恥ずかしさのあまりギュッと目を瞑った。