其の十五



「只今帰りましt…………」



忍術学園から帰ってきて、兵庫水軍が使っている家の引き戸を開ける。
しかし、思いがけない人物が居て、思わず中に入らずに引き戸を閉めてしまった。
中にお里や兵庫水軍の皆さんが居るのは分かる。
でも……、どうして父上までいるの……!?
あれ? 今日来るって言ってたっけ? 言ってないよな?



「閉めるんじゃない」
「っうおう!」



混乱した頭を落ち着かせようとしていると、中から引き戸が開けられて、ぬんっと父上が出て来た。
驚いて声を上げると、父上は呆れながら「女らしくしろ」と言う。
久しぶりに父上にお馴染みの言葉を言われ、本当に父上だ、と思ってしまう。
唖然としながら父上を見ると、父上は「とりあえず中で話すぞ」と言い、私と旦那様の背中を押して中に入れる。



「全くお前は……、何も変わってないな」



小言を言われながら、父上が座る場所の前に旦那様と隣で座る。
「父上こそ」と皮肉を込めて言うと、父上はわざとらしく溜め息をつく。
ふと、後ろで私達と同じように座っている兵庫水軍の皆さんが「本物だ」「初めて見たな」と会話している声が聞こえた。
父上ってそんなに騒ぎ立てる程の御人だろうか。



「舳丸、すず、何故お前達が結婚することになったのか理由を話しておこうと思う」



父上の言葉に、皆さんがざわつく。
確かに、武家の男性と結婚させられると思っていたが、実際には兵庫水軍の元だった。
果たしてそれが政略結婚と言えるのかどうか微妙なところだったが……。
何故強制的に結婚させられたのか、今理由が明かされるのか。



「まず第一に、兵庫水軍が拠点とする瀬戸内海の播磨灘は、俺が仕えている殿が治めている地域に含まれる」



兵庫水軍には海から敵が来る度に報告、そして魚を分けてもらっていた。
故に日頃の感謝と、これからも協力してもらう為だという。



「第二に、此処から屋敷と忍術学園はそう遠くない」



つまり、敵が兵庫水軍を襲ってきたり何かあった場合、実家と忍術学園のどちらかに逃げることが出来る。
実家は勿論のこと、忍術学園には親戚の滝夜叉丸が居る為、説明すれば助けてくれるだろう、とのこと。



「最後に、舳丸、お前だ」



父上が旦那様に視線を向けてそう言う。
旦那様は父上の言葉を聞き、「私ですか……?」と驚いた様子で言った。
そんな旦那様の様子に、父上は笑みを浮かべて「ああ」と頷く。



「兵庫水軍の誰かに嫁がせるというのは決めていたが、誰にするのか決めていなかった」



だから、実は隠れて誰にするか見定めたのだ。
父上の言葉に、お頭が「ええっ!?」と驚く。
無理もない、まさか父上が隠れて自分達の仕事姿を見ていただなんて思わないもの。
父上は戦の会議等で家を空けることが少なくなかったから、全く気付かなかった。



「年上、容姿も良い、誠実そうで仕事熱心、面倒見が良い、将来有望。正に俺が探し求めていた男だった」



父上の言葉に、旦那様は「そんなことは……」と照れながら言った。
だが実際、私も父上の言葉に同意だ。
ずっと見てきて分かったが、旦那様にはたくさんの魅力がある。
口下手でそっけなく見える態度が誤解されやすいが。



「だが鬼蜘蛛丸と悩んでな」



苦笑しながら言う父上の言葉に、私達は思わずバッと鬼蜘蛛丸さんを見る。
鬼蜘蛛丸さんは目を丸くしながら「わ、私ですか?」と自分を指さして驚く。
しかし「ただ陸酔いがな……」と父上に言われ、父上と鬼蜘蛛丸さんを除く全員が「あー」と納得する。
鬼蜘蛛丸さんは私達の反応に「なんだよぉ……」と口を尖らせた。



「舳丸、もしすずが邪魔だというのなら、いつでも離縁して良いんだぞ」
「おおっと何を言い出すんだこの人は」



私に幸せになってほしいのかほしくないのか、どっちなんだ父上。
ついムスッとしながら父上を睨むと、父上も睨み返してきた。
まるで「お前は黙っていろ」と言われているかのようだ。
父上が旦那様に視線を向けると、旦那様は「私は……、」と口を開いた。



「私は、生涯すずと添え遂げるつもりです」



旦那様の言葉に、私は目を丸くして旦那様を見る。
そして、後ろにいる皆さんが「ひゅーひゅーっ!」「よく言った!」と一斉に盛り上がった。
父上は旦那様の言葉を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべ、「そうか」と呟く。
え、なん、なんで……。
今まで旦那様は私に手を出そうとはしなかったし、口吸いだって今日が初めてだった。
完全に妻としては見られていないものだと思っていたのに。



旦那様、本当は私のことをどう思っているのですか?

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