其の七



私とお里が作った朝餉を、皆さん「美味い!」と言って食べてくれた。
その後第三協栄丸さんからの「これからずっと食事を作ってくれないか?」と言う言葉に、勿論即承知した。
皆さんの言葉と、第三協栄丸さんの言葉が嬉しくて、気が緩むとニヤけてしまう。



「ふーん♪ ふんふふーん♪」



皆さんが漁業で船に乗って魚を取りに行っている間、私とお里は着物を洗濯して干した。
それからは特にすることもない為、海辺でしゃがんで綺麗な貝を探す。
鼻歌を歌いながら探していると、小さな蟹が私の前を通り過ぎた。
可愛らしいその動きに、笑みが零れる。



「すず、お里、ちょっと良いかー?」



少し遠くの方から声をかけられる。
腰を上げて第三協栄丸さんを見ると、笑顔で手招きをされた。
お里と一緒に第三協栄丸さんの元に行くと、彼の周りにはたくさんの木材があった。



「小船の修理をしたいんだが一人ではキツくてな、手伝ってもらえないか?」



確かに一人では大変そうだ。
「無論です」と返事をし、空いている場所に座る。
お里も協力してくれるようで、私と同じように空いている場所に座った。
「ありがとな」とお礼を言う第三協栄丸さんは、早速何をやってほしいのか説明を始める。
初めてやるということもあって、やることは小船に空いた小さな穴を塞ぐということだった。



「指を怪我しないように気を付けろよ」



第三協栄丸さんの言葉に「はい」と返事をし、早速作業に取り掛かる。
釘と槌と板を用意し、小船の穴に板を当てて、釘と槌で板を付けていく。
槌は少し重く扱いづらいものの、初めてにしては上手くやれている気がする。
ただ指に当たるかもしれないという恐怖があって、第三協栄丸さんのようにササッとできないけど。



「すず様、大丈夫ですか? 難しいのならこのお里が……」
「大丈夫、普段やらないから楽しいよ」



私の言葉に、お里は「左様ですか」と安心したように微笑んだ。
自給自足の生活をしてこなかったから、こういう作業は新鮮で楽しい。
民はこうやって生活しているのか。武家の私より偉いな。



「身分が高くなるにつれ人は変わる。苦労するのはいつも民だ」
「されど、すず様のように心優しき御方もおりまする」
「私なんてまだまだ。自分では何も出来ない」



いつかは父上のように強く優しくなれたらと、何度思ったことか。
しかし私は女子。自分の力で世を動かす力はない。
男に生まれていたら何か変わったのかもしれないが、もう叶わない。
おっと、思いふけっている場合ではなかった。
ちゃんと作業に集中しないと、槌で指を怪我してしまう。




 ***




手伝ってくれ、と頼んだものの、正直受けてくれるとは思わなかった。
俺自身、武家の娘だから、と偏見を持っていたのだろう。
快く引き受けてくれて、すぐに手伝ってくれたことに驚いた。
指を怪我しないだろうか、とハラハラしながら作業しつつも彼女を見守る。
しかし杞憂だったようで、彼女達は器用に次々と小船を直していってくれた。



「すず、お里」



一番難しい作業が終わり、いまだ直してくれているすずとお里に近寄る。
名前を呼ぶと、二人同時に俺へと視線を向けた。
きょとん、とした同じ表情の二人に笑顔を浮かべる。



「本当にありがとな。お礼は必ずさせてもらうから」
「え、いや、お礼は……」
「それから、俺のことは気軽にお頭って呼んでくれ」



俺がそう言うと、すずもお里も「はあ……」と曖昧に返事をする。
それを聞き、俺は満足して次の作業をする為の準備に取り掛かった。
正直武家の娘との結婚は心配や不安ばかりだったが、彼女達なら大丈夫そうだ。
むしろ、彼女達で良かった。

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