変魂if | ナノ

『第4章 真・遠呂智討滅戦』


まったくあの人は……。なんて思いながらも、討伐軍の本陣に戻ってきた。道中にはまだ怪我を負って倒れている人もいて、応急処置をしてきたから時間がかかってしまった。戻ってきた私の姿を見て、市が手当てをする手を止めて「冬紀」と私の名を呼ぶ。市の隣に行くと、彼女は再び手当てを開始しながらも「どうだった?」と私に聞く。



「傷は深かったけど、討伐軍に加勢するって」
「本当に!? 良かったじゃない、冬紀!」



ぱあっと綺麗な花が咲いたかのように、美しく可愛らしくもある笑みを見せる市。その笑みに見惚れながらも、「そうだね」と頷く。ただ問題は、私と素戔嗚様かな。傷の手当てがあったから会話出来たけど、次会った時にちゃんと話せる自信が無い。謝罪も、したほうが良いのかな。……素戔嗚様は、裏切った私を許してくれるだろうか。



 ***



戦が終わったと報告があった。英傑達は遠呂智を倒し、世界を救ったのだ。
兵達の手当てが一段落ついた頃、遠呂智を倒しに向かった英傑達が続々と本拠地に帰ってくる。帰ってきた英傑達を褒め称え、彼等を囲って歓喜する兵達。市は信長様の元へと駆けて行き、私は一人残された。嬉しそうに笑みを浮かべながら「流石お兄様!」と信長様に言う市に、信長様も笑みを浮かべた。その光景を見ていると、人だかりの奥がざわついてきた。



「…………」



奥の方から、こちらに近づいてくる人。彼等二人の道を作るように、兵達は彼を見て「素戔嗚だ」「本物だ」と呟きながら、彼等を避ける。彼等――素戔嗚様とナタは、真っ直ぐと私を見ていた。一歩、また一歩と、素戔嗚様とナタが近づくにつれ、私にも周りの視線が向けられていくのが分かる。こんなに注目を浴びて、本当はどこかに逃げたいんだけど……、不思議と、逃げることは出来なかった。



「……冬紀」
「……はい」



返事をした瞬間、素戔嗚様がその場に胡坐で座った。何事かと驚いていると、膝に手をついた素戔嗚様は、私に向かって頭を下げた。周りがざわつく。驚きのあまり何も言えずにいると、素戔嗚様は頭を下げたまま口を開いた。



「すまなかった」



まるで時が止まったかのように、素戔嗚様から視線を外せられない。



「分かっていたのだ、汝が人の子等と戦うことを良しとしないことを。その上、汝を傷つけてしまった」



今よりも深く頭を下げ、「すまなかった」と、もう一度謝罪をする素戔嗚様。神様が人間相手に頭を下げるだなんて聞いたことも、見たこともない。口では謝るかもしれないけど、頭を下げるだなんて、そんなこと神様がする? ……ああ、もう、これだから素戔嗚様は……。
私もその場に正座をし、素戔嗚様に向かって頭を下げる。



「自分の気持ちを正直に話さず、裏切ってしまって申し訳ございませんでした」



私の言動に、素戔嗚様が頭を上げる気配がした。私も頭を上げると、素戔嗚様は珍しく驚いた表情で私を見ている。「二人とも謝って、変なの」と言うナタに、思わず笑ってしまった。確かに、こうやってお互いに謝るなんて変かもしれない。



「また、一緒に居ても良いですか?」



私の言葉に、素戔嗚様は呆れたように笑みを浮かべながら「……諾」と言ってくれた。



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