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翌日、三蔵一行の歓迎会が開かれた。町の人々は三蔵一行が訪れたということに歓喜し、それはそれは豪勢に盛り上がっている。「歓迎! 三蔵法師御一行」と書かれた垂れ幕が壁に飾られ、机の上には豪華な料理がたくさん並んでいる。そんな光景を見て、三蔵が顔に手を当てて項垂れた。
「町中の皆が三蔵様に是非と持ち寄った物です。お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がりください」
町の人々を代表し、近所のおばさんがそう言う。しかし、すぐに何かに気づいたのかハッとし、「あらやだ」と頬に手を当てて呟く。どうしたんだろう、と見ていると、おばさんは台所に一番近い私に視線を向ける。
「冬ちゃん、急いで三蔵様達のお茶淹れてきてちょうだい」
「あ、はい」
おばさんの言葉に返事をし、急いで台所に向かう。チラッと見えたけど、三蔵が私に視線を向けていた。あれは私に話が振られたからだと思いたいけど……、なんだろう、昨晩の言葉にも何か違和感がある。三蔵が私のことを気にしている、のか……?
***
一からお茶を作り、四人分のコップにお茶を淹れ、それをお盆の上に置く。いざ持っていこう、と思った矢先、宿先の方から「うわあああ!?」という悲鳴が聞こえた。ビクッとしてしまい、慌てて持ったお盆を机に置く。漫画の展開は……、そうか、妖怪が来るんだったか。いや、もう来た時だな、これは。
「って、呑気にしてる場合じゃないだろ」
思わず自分にツッコミを入れ、慌てて先程の部屋へと戻る。しかし、そこには誰も居らず、外を見ると、血だらけの妖怪達が倒れていた。OROCHI世界での、武将達が無残な姿で死んでいる光景を思い出し、少し吐き気がする。
「あっ、冬さん! 良かった、無事だったのね……!」
外に出ると、傷一つない聖羅さんが私を見てホッとする。妖怪達と戦っている三蔵一行を見ながら聖羅さんに駆け寄り、「これは?」と聞くと、不安そうな表情で「妖怪達が襲ってきて……」と返事が返ってきた。町の人達の様子を見ると、誰もが三蔵一行を青ざめながら、化物を見るかのような目で見ていた。まあ、こんな大参事にされたら当然といえば当然か。
「か、勝てねぇ……、勝てるわきゃねぇっ!」
「これが……、これが数多の妖怪を虐殺してきた悪魔の化身ども…――」
――玄奘三蔵一行
たくさんの仲間を殺され、逃げ出す妖怪も居る。そんな奴等は三蔵一行は深追いすることなく鼻で笑った。凄い強さだ……、と唖然としていると、聖羅さんの「星華っ!?」という声にハッとし、聖羅さんを見る。聖羅さんの視線の先には、震えて足に力が入らず地面に座り込んでいる星華ちゃんの姿があった。
「何してるの星華! 早く逃げなきゃ!」
「あ、足が……」
慌てて星華ちゃんに駆け寄る聖羅さん。私も聖羅さんを追うように星華ちゃんに駆け寄る。なんとか立たせようと両肩を掴むけれど、思った以上に恐怖心があるようで、足に上手く力が入らないらしい。
「しかし随分集まりましたね」
「あれだけ三蔵三蔵と騒げば餌ばら撒いたようなモンだ」
妖怪達を倒したのか、猪八戒と三蔵が一息つきながら会話をする。気づけば、町の人々は皆、建物の中に入ってしまい私達三人だけが三蔵一行とこの場に居た。そのことに、沙悟浄が「怖くなったんだろ。これだけ殺せば俺達の方が、妖怪よりも」と妖怪の死体を軽く蹴りながら言う。
「おい、」
その時、三蔵が私を見ながら此方に近寄ってきた。そのことに、明らかに強張る星華ちゃんと聖羅さんの表情。なるべく二人の恐怖心を和らげようと、二人の前に出て三蔵から少し遠ざける。
「お茶なら中に」
「……そうじゃねぇよ」
思わず呆れられたその時、すぐ後ろに居るはずの星華ちゃんの気配が消えた。驚いて後ろを見ると、「きゃあぁあ!」という星華ちゃんの悲鳴が頭上から聞こえる。バッと上を向くと、屋根の上に妖怪に捕らえられた星華ちゃんが居た。「星華ぁ!」「お姉ちゃん!」とお互いに名前を呼びあう聖羅さんと星華ちゃん。
「ははは! どうだ、これで手が出せまい、三蔵一行! 形勢逆転だな。まずは経文を渡してもらおうか」
「いやあああ! お姉ちゃん!」
泣き叫ぶ星華ちゃん。何も出来ずに青ざめて「星華! 星華を放して!」と叫ぶ聖羅さん。こんなヤバい状況でも、孫悟空と沙悟浄は呆れた表情で「あーあ」と棒読みで言った。
「いるんだよな〜、あーゆー馬鹿」
「駄目ですよ、悟浄。本当の事言っちゃあ」
余裕の笑みで言う沙悟浄と猪八戒に、敵の妖怪は「何ィ!?」と青筋を浮かべる。星華ちゃんも三蔵一行のこの言動には驚きのようで、涙を流しながらも唖然と三蔵一行を見る。そりゃそうだ。命を失うかもしれないという状況で、あんな態度を取られたら誰だって不信がる。
「貴様ひとりで俺達に何ができる? 第一、そんなガキの事なぞ知ったこっちゃねぇよ」
冷たい三蔵の言葉が意外だったのか、妖怪は「なッ……」といまだに青筋を浮かべながらも唖然とする。そして、我慢ならなかったのか、捕まっている星華ちゃんが泣き叫んだ。
「さ、サイテー! 何が三蔵一行だよ! 助けてもくれないクセに!」
しかし、そんな星華ちゃんの言葉にも、三蔵は淡々と言った。
「当然だ。俺は誰かを助ける為に三蔵やってんじゃねえからな」
「ま、ただし、売られたケンカは高値買い取りよ?」
三蔵の後に続き、沙悟浄が笑みを浮かべながら言う。その余裕なやり取りに、妖怪はいよいよ怒りを我慢出来なかったのか、メキメキ、と背中から羽根を生やした。間近で見た星華ちゃんは「きゃあああ!?」と悲鳴をあげる。孫悟空は「うげっ、羽根あえた!?」と引き、三蔵は「ほー、芸達者なヤツだな」と心にもないことを言う。
「ははは! さらばだ! 次は容赦せんぞ!」
「――って逃げるだけかよ、オイ!」
逃げようとする妖怪に、すかさず沙悟浄がツッコミを入れる。流石に逃げられるとマズイのか、猪八戒が「ジープ!」と車を呼び、三蔵一行が次々と車に乗り込む。
「教えてやろーぜ。”売ったケンカは、――返品不可”」
三蔵一行を乗せたジープは、そのまま勢いよく発進した。