変魂if | ナノ

『RUN 4/4』


 ***




しばらくして、車のエンジン音が聞こえた。音のする方に顔を向けると、三蔵一行と星華ちゃんを乗せたジープが見え、ホッとする。少し離れた方で車が停められると、すぐに車を降りた星華ちゃんが此方に駆け寄ってきた。



「良かった、星華……! ケガは?」
「うん、大丈夫。あの人達が助けてくれて……」



お互いに抱きしめ合い、無事を確認する聖羅さんと星華ちゃん。と、その時、三蔵が車から降りると、私の方へ歩み寄ってくるのが見えた。やっぱり喉が渇いていたのだろうか、と思っていると、私の前で歩みを止める三蔵。



「っ!?」
「え、な、何してるんですか!?」



いきなり私を肩に担ぐ三蔵。それに驚きすぎて声も出ず、しかし聖羅さんが代わりに驚きの声をあげた。三蔵は「うるせぇよ」と一言言うと、私を担いだままジープへと向かう。 ん? これはどういう……?



「ど、どうしたんだよ、三蔵?」



他の三人も驚きのようで、皆の心を代表して孫悟空が三蔵に聞く。だが、三蔵は無視して、私を後部座席へと投げ込む。沙悟浄の上に落ち、二人揃って「ぶへっ!」と変な声を出してしまう。痛みに目に涙を浮かべながらも、三蔵へと視線を向けると、三蔵は助手席に座っていた。



「出せ」
「え? ですが……、」
「いいからとっとと出せ」



三蔵の強めの言い方に、猪八戒は戸惑いつつもジープを発進させる。その事に「えっ」と思わず聖羅さんや星華ちゃんに視線を向ける。二人共驚いた表情で、どうしたら良いか分からない様子だ。慌てて起き上がり、助手席のシートに手をかける。



「あの、困るんですけどっ……!」
「三仏神の命令で、お前は俺達の旅に加わることになった」
「じゃあ仲間だなっ!」



三蔵の言葉に唖然とし、孫悟空の言葉に「そんな……」と呟く。……じゃあ、三蔵が私を気にかけていたのは、旅に加える為……? 三仏神め、余計なことを……。



「足手纏いは嫌です。私料理くらいしか出来ません」
「なら精々努力するんだな」
「何々、料理出来んの!? 全然オッケーじゃん!」
「悟空は美味しい料理が食べれればそれで良いですもんね」
「それに女って点が華があって満点だぜ?」



おいおいおい、話が脱線してるよ……。呆気に取られていると、沙悟浄が頭の後ろに腕を回し、「なー、カッコつけて出てきたはいいけどよ、もー夕方じゃねーかよ。もしかして今夜も野宿?」と疑問を口に出した。の、野宿ッ……。



「地図によると次の町まであと三日はかかりますよ」
「三日ァ!?」
「ちょっと待てよ、食い物は!?」
「買い出しくらいしてくればよかったですねぇ」



三日……、食べ物も無し……。……ん? 食べ物?



「てめぇの食い物なんざどーだっていいんだよ! 酒は!? 煙草は!?」
「どーでもいいとは何だッ! 俺が餓死したらどーしてくれんだよ!」
「知るかっ、勝手に死んでろ!」
「あの、お弁当、此処にありますけど」



私の言葉に、孫悟空と沙悟浄は喧嘩を止めて「へっ……?」と唖然としながら私を見る。そして、その視線は私から私が手に持っているお重箱へと行く。多めに重箱に入れておいて良かった、と思っていると、孫悟空が私からお重箱を手に取り、蓋を開ける。



「うんんんまそおおおおお!」
「へえ、こりゃ豪勢だな」
「待っている間に出された料理を適当に詰め込んだんです。旅だから食料に困るかなあ、と思って」



目を輝かせながら涎を垂らす孫悟空に、豪華な中身に驚いた表情をする沙悟浄。どうして持っているのか理由を話すと、運転している猪八戒が「これはこれは、有能ですね」と嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。そうこうしている間に、孫悟空が手を合わせて「いただきまーす!」と満面の笑みを浮かべて言う。



「うおい、今から食うな! 大体てめぇが人の何倍も食うからすぐ食料が底つくんじゃねぇか、この大喰らい猿!」
「ンだとー!? 煙草だバクチだっつって金使い果たしてる奴に言われたくねーよ、このゴキブリ河童!」
「うるせえ! 黙ってられねぇなら今すぐ撃ち殺すぞ!」
「ぎゃー当たる! そのキョリは当たる!」



……随分賑やかだこと。
――こうして私は三蔵一行に加わり、強制的に旅に参加させられることとなった。



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