変魂if | ナノ

『RUN 2/4』


懐中電灯で足元を照らしながら、どこかに聖羅さんの足跡が無いか探す。しかし、懐中電灯で明るいとはいえ、周りは暗いし、足跡自体あるかどうかも分からない。「うーん……」と思わず唸り声を出しながら、半ば諦めていたその時、



「……あ……」



誰の物かは分からないが、森の方に続く足跡を見つけた。それも一人のものでなく、複数人のもの。しかし、おかしい点がひとつあり、四人分ある足跡が、途中から三人分の足跡になっているのだ。これはつまり、聖羅さんが途中で担がれた、ということだろうか。ふむ、と顎に手をあてていると、車のエンジン音が聞こえてきた。



「冬さーん!」



後ろから名前を呼ばれる。振り返って見ると、近づいてくる車に乗りながら、星華ちゃんが私に手を振っていた。車は私の傍まで来ると、キィ、と停まる。その瞬間、星華ちゃんが身を乗り出しながら「乗って!」と言う。いやいやいや、展開が早い、ちょっと待って。



「何かありました?」



運転席に座る猪八戒と思われる男性が私にそう聞く。「それが……、」と言いながら、全員に見えるように複数の足跡を懐中電灯で照らす。



「この四人分の足跡、途中から一人分の足跡がぱったり消えていて……」
「森の奥に続いているようですね……」
「間違いなさそうだな」



そう言うと、三蔵らしき男性が私に「乗れ」と言う。その言葉に従い、車に歩み寄ると、後部座席に座る沙悟浄らしき男性が私に手を差し伸べる。少し戸惑ったものの、今は急いでいる為、その手を取り車に乗った。私が座ったのを確認すると、猪八戒はアクセルを踏んで車を走らせる。



「おい、」



走り始めてすぐに、三蔵がそう言う。誰に声をかけているか分からない為、皆が首を傾げて返事をせずにいる。しかし、三蔵は顔を後部座席に向け、その視線を私を捉える。ぎょっとしていると、「お前だお前」と言われる。あ、ああ、私に声かけてたんですね。「なんですか?」と戸惑いながらも聞くと、



「名前は?」



と聞かれた。おっおっ? なんですか三蔵さん、それは一体どういうことですか。何か裏があるんですか。



「なになに、三蔵。この子のこと気になっちゃうワケぇ?」
「貴様みたいなふしだらな理由じゃねぇよ」
「カッチーン」



まるで言い合いになりそうな雰囲気。すかさず八戒が笑みを浮かべながら「まあまあ」と言う。それにより、悟浄は「チッ」と舌打ちしただけでそっぽを向く。いやー、こんなところで喧嘩にならなくて良かった。と思っていると、「で?」と再び視線を向けられて聞かれる。ああ、そうだった。



「神田冬紀です」



私の名前を聞き、三蔵は「……そうか」と小さく言う。……えっと、それだけ……? 少し唖然としてしまっていると、八戒が三蔵に「どうかしましたか?」と聞くけれど、三蔵は「いや」と短く言うだけで詳しくは言ってくれない。



「つーかさ、なんか変わった名前だよな」
「あ、それ悟浄サンも思った」



おおっと、つっこまれたか。



「冬さんは異国の人なんだ。行くとこないからうちで居候してるの」



おおっと、星華ちゃん!? 私の許可なくバラすんです!? 可愛いから許しちゃうけどね! 内心ドキドキしていると、沙悟浄と孫悟空が「へー」と言いながら私を見た。見ないで、なんて言えるはずがない恐ろしい。下手な笑いを浮かべていると、前方から何人かの人影が見えた。猪八戒がそれに気づき、「あ」と言うと、車を停める。



「いやああああ!」



三人の内、一人の男に押し倒された聖羅さんが涙を流しながら悲鳴を上げる。その瞬間、隣に座っていたはずの沙悟浄が、いつの間にか聖羅さん達の元に駆け付け、聖羅さんを押し倒している男の顔面を蹴った。「ぶへっ!?」と情けなく声をあげながら倒れる男に、沙悟浄は笑みを浮かべながら言う。



「俺より先に手ェ出すたあ、イイ度胸じゃねーか、兄ちゃん達」



楽しみを邪魔され怒ったのか、もう一人の男が「ンだ、てめぇは!?」と青筋をたてながら怒鳴る。「邪魔すんじゃねぇ」と言葉を続けたかったのだろうが、その言葉は孫悟空の蹴りによって遮られた。痛みで起きれない男に、「妖怪に罪なすりつけてただとォ!? セコイ手使ってんじゃねーよ!」と怒りをあらわにする孫悟空。その隙に、私は星華ちゃんと共に車を降り、聖羅さんの元に駆け寄る。



「お姉ちゃん!」
「大丈夫ですか!?」
「星華! 冬さん! どうしてここへ……?」



「あのお客さん達がっ……!」と星華ちゃんが説明をしようとしたその時、一番最初に沙悟浄に顔面を蹴られた男が起き上がった。私は聖羅さんを近づけまいと、自分の背に聖羅さんと星華ちゃんを隠す。「ふざけやがって……、ブッ殺すぞ、ああ!?」と怒鳴った男は、持っていたナイフを取り出すと、三蔵に向かって走りだした。



「……ぜえな、……すぞ」
「オラァァああ!」



三蔵がぼそぼそと何か言ったのが聞こえなかったのか、雄叫びをあげて三蔵に斬りかかる男。しかし、それはいとも簡単に避けられ、隠し持っていた銃を突きつけられる。そのことに男は動揺し、目を丸くしたまま固まった。「聞こえなかったか?」と三蔵が言った直後、ガウンッ、という音と共に、男の膝に銃弾が貫通する。



「殺すと言ったんだ、クソ野郎」



邪魔になったのか、マントを脱ぐ三蔵。そこから覗くのは、眩しい程綺麗な金髪と、白い法衣に、肩にかけてある経文。銃弾を浴びた男は「ぎゃあああ!」と悲鳴をあげ、それを見た仲間の男は「ヒィ!」と情けない声をあげながら青ざめる。



「お、おい、ジョーダンだろ……。銀の銃を持つ金髪の僧侶、ジープに乗った4人組、と言ったら……まさか……」



男が唖然と言っていると、先にマントを脱いだ三蔵を除く他の三人が、同時にマントを脱ぐ。いよいよ露になった孫悟空、沙悟浄、猪八戒の姿。猪八戒はニコッと笑みを浮かべると、口を開いた。



「さて、どうします? こちらの方々」
「そりゃもー、ボコでしょう!」
「殺せ、今殺せ、すぐ殺せ」
「そいじゃま、とっとと片付けますか。おネムだもんねぇ、三蔵様は」



四人の姿と言葉に驚愕する男達。「さ、さんッ、三蔵法師いっこ」と最後まで言い切る前に、「ぎゃああああああああ」と言う男達の悲鳴が森全体に響き渡った。



3/5

しおりを挟む
戻るTOP


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -