変魂if | ナノ

『RUN 1/4』


この世界に、この村に来てから数日が経った。異人の私を、宿を営んでいる御主人は快く受け入れてくれ、宿の手伝いをするという条件で居候させてもらっている。宿で働いている御主人の姪であろう聖羅さんと星華ちゃんも、私にとても良くしてくれる。良い所に辿り着いたものだ。



「ただいま帰りましたー、……っと、お客様来てたんですか」



つい先程調味料を切らしてしまい、すぐに買ってきてほしいと頼まれた。急いで買って帰ってきたら宿を利用するお客さんが四人来ていた。大きな布に身を包み、グラサンをかけているお客さん四人の姿は怪しさ満載。警戒しつつも、「あ、お帰りなさい」とニコニコしながら言ってくれる聖羅さんにもう一度「ただいまです」と言う。



「いらっしゃいませ」



とりあえず警戒していることを気づかれない為に、少し笑みを浮かべて四人に向かって言う。その中の一人が「どうも」と優しい声が返事をしてくれる。が、どうも違和感。その声はあの綾部にそっくり。ということは……、もしかしたら三蔵一行の可能性がある。っていうかそうに違いない。ついに主人公達が来たか。



「……磨けばもしくは、いや、今でも割と……」



四人の一人、赤髪が布からのぞく男性が私を見て、顎に手をあてて言う。チラッと見ると、赤髪の人――おそらく沙悟浄――は「んんっ」とわざとらしく咳払いをする。まあ良いか、と聖羅さんに歩み寄る。



「すぐに夕飯の支度手伝います」
「ええ、お願いね」



ニコッと眩しい笑顔の聖羅さん。既に沙悟浄に狙われているだろうが、確か三蔵がハリセンで殴ったと思うから、今は放っておいて良いだろう。四人と聖羅さんに背を向け、厨房に向かうべくドアを開ける。しかしドアを開けてすぐ、星華ちゃんが居た。



「しーっ」



人差し指を口元に当て、静かにそう言う星華ちゃん。怪しさ満載の四人の行動を警戒し、ずっと見張っていたのだろう。星華ちゃんに「了解」という意味で頷き、ドアを閉めたふりをしてほんの少し開けたままにする。星華ちゃんは口パクで「ありがとう」と言うと、再び四人の行動を見張る。愛らしいその姿に自然と頬が緩んでしまうが、すぐに夕飯のことを思い出してハッとする。いかんいかん、早く夕飯作らなきゃ。




 ***




一通り仕事を終え、一息つこうと自室に向かう廊下の途中で、星華ちゃんがとある部屋のドアの前で座り込んでいた。私が声をかけるよりも先に、「しーっ」と再び人差し指を口元に持って行く星華ちゃん。「ん?」と首を傾げると星華ちゃんの背後の部屋から騒がしい声が聞こえてきた。



「うるせえ! 何時だと思ってやがるこのバカどもがッ! さっさと寝ろ!」



その怒声が聞こえ、スパパーンッ!、という痛そうな音が聞こえ、ふたつの悲鳴が聞こえたと思ったら、何事も無かったかのようにシーンと静かになった。そのことに、星華ちゃんは「どうしたのか」と言いたさげに部屋に視線を向ける。と、その時、慌ただしい足音が聞こえてきた。その足音が近づくのと同時に、足音の原因である御主人の姿も現れる。



「こんな所におったか!」
「伯父さん?」
「聖羅ちゃんは何処行ったんだ? 夕飯の後からずっと姿が見えんのだが……」



焦った表情の御主人。何かあったのではないか、と不審に思った星華ちゃんが「お姉ちゃん、まだ帰ってないの?」と不安な表情で御主人に聞く。その言葉に、御主人は「だって、買い物に出てからもう三時間も……」と言う。……三時間……。何か手がかりは……、と思っていると、「おやっさん!」とこの宿で働いている男性が慌てた様子で駆け寄ってきた。



「裏通りに買い物カゴ落ちとったが、コレ……、聖羅ちゃんのじゃないか!?」



小さなカゴを私達に見せる男性。確かに、あのカゴは聖羅さんが使っているカゴにそっくりだ。私が居ながら……、もう少し警戒して聖羅さんと一緒にいたら、聖羅さんは妖怪に連れて行かれずに済んだだろうに。仕事に集中して聖羅さんの行動を把握していなかった……。



「探して来ます」



普段焦らないせいか、珍しく焦っている自分にも焦り、逆に何故か冷静にそう言えることが出来た。戸惑いを隠せないが、今は物事をしっかりと判断しないといけない。三蔵一行が助けてくれるのは分かってる。それでも事を説明するには時間がいるだろうし、追いつかれる間にでも私が手掛かりを見つけなければいけない。「き、危険だ!」と私を静止する声を無視し、私は一目散に宿を出た。



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