変魂if | ナノ

『ゾンビ編 3/4』


「ケッ、ケイト・ブロリー!」



その時、コムイさんが大声でそう言った。引き金を引くのをやめ、クロウリーさんからコムイさんに視線を向ける。何を言い出すのか、と思った時「ファニー・ルルー、オリヴエ・ヴィランク、オットマール・ダッハ、セレスティン・ドゥクレ、」と誰かの名前を次々に言い出した。それを聞く度にリナリーの表情が変わっていく。



「っ、おまえ……」



リナリーがそう呟いた時、クロウリーさんが「ガルルッ!」と唸った。咄嗟に「や゙めろ噛むな!」と制するリナリー。クロウリーさんが大人しくなると、コムイさんが「自分の名前を忘れたって言ったよね」とリナリーに声をかける。



「ルベリエ家の記録は僕でもまだすべて見れてないけど、それ以外の本部で行われた実験の記録は全部覚えてる……。君がルベリエ家の子でなければ、今挙げた中に君の名前があるはずだ」



その言葉に、コムイさんから体を離すリナリー。それを見て、コムイさんは「それとも……」と言いつつ体を起こした。



「全員が集まって君なのかな?」



リナリーが唖然としながら「な、まえ……、百年、ぜんぶを……?」と呟く。いつも迷惑ばかりをかけるコムイさんだけど、いざという時は頼りになる。死者の名前を全て覚えているだなんて、普通の人が出来ることじゃない。



「君達を置いていくつもりなんてないさ。……君達だけじゃない。この十字架の元に犠牲になったもの全部、僕が室長としてずっと背負ってくつもりだ。それだけしかできないけど、それだけはできる」



――だから、こんな化けて出なくたって忘れたりしないよ。



その言葉が嬉しかったのか、リナリーの目からは涙が溢れ出す。何度も何度も確認を取るその姿は、余程嬉しいのだということが分かる。構えていた銃を降ろし、ホッと一息をつく。しかしその時、ずっと待っていたクロウリーさんが「ガァアアア!」とコムイさんに向かって再び牙を向けた。



「大丈夫、そろそろだよ」



だがコムイさんは余裕の笑み、というより怪しい笑みを浮かべている。ウォーカーが「どういうことですか?」ときょとんとしながらコムイさんに聞いた時、クロウリーさん目掛けて何かが降って来た。ぶすっ、と音を立て、降って来たもの――コムリンEX――の手の注射器がクロウリーさんの首裏に刺さる。



「え、な、クロちゃん!?」



困惑する私達を余所に、クロウリーさんが唖然としながら「……ある?」と呟いた。その表情は自我を失っていた時とは違い、私達が知っているクロウリーさんの表情だ。コムリンEXは「ワクチン注射完了」と言うと、クロウリーさんの首裏から注射器を抜く。



「はれ、私は一体……?」



すっかり元通りのクロウリーさんを見て、リナリーが「へっ?」と驚き、ウォーカーとラビが「クロウリィィイ!」「クロちゃんんん!」とクロウリーさんに抱きつく。コムイさんはコムイさんで自慢げに「フッ、僕のコムリンがワクチンごときで作れないわけないじゃなーい」と笑みを浮かべた。



「ワクチンが手に入ればこっちのものだい! いっけぇー、コムリンEX!」
「サー!」



コムイさんの指示に従い、コムリンEXが注射器を構えながらゾンビ達に突っ込んで行く。「人騒がせな……」と呟くと、ジョニーさんが「本当だよね」と苦笑した。その時、リナリーが私をじっと見ていることに気づいた。しかし、目を合わせるとフイッと視線を逸らされてしまう。……あ、あれ……?



「女性がそれを持つのは感心しませんね」



ふいに銃を誰かに取り上げられる。驚いてそちらに顔を向けると、正常姿のリンクが立っていた。そんなリンクを見て、常に一緒にいたウォーカーが「リンク!」と目を輝かせる。当の本人は「まるで悪夢を見ていたかのようです」と顔を歪め、私へと視線を向ける。その目はなんというか、責めるような目つきだ。なんか怖い。



「貴女は医療班の方でしょう。こんなものを持って、はしたないとは思わないのですか」



えっ、嘘、なんか説教されてる!?



「チッ、うるせぇな」



横下から声が聞こえ、そちらに視線を落とす。暴言をはいた神田は小さいながらも腕を組み、リンクを睨みあげていた。そんな神田に動じず、リンクも負けじと無言で神田を睨む。バチバチ、と交わった視線から火花が飛びそうで、私はどうしようものかと二人の顔を交互に見る。ヤバイ、修羅場……。



「あ、あー…、お二人さん?」



私が声をかけると、二人共「あ?」と目つきが悪い状態で私を見る。うっ、怖い……。思わず「顔怖い、ヨ……」とか細い声で言うと、リンクはハッとして「ゴホンッ」と恥ずかしそうに咳払いをする。しかし、神田はそのままの表情だ。



「冬紀、悪いな。一人でキツかったろ?」



どうしようもんか、と考えていると、縄を解いてもらったリーバーさんが私に近寄りながら苦笑して言った。慌てて「ああ、いえ」と返事をする。



「銃、勝手にお借りして申し訳ないです」
「いや、冬紀がやってくれなかったらアレン達も今頃アイツ等みたいになってただろうし。ありがとな」



……土井先生のことがなければ惚れてたかもしれない。てっきり銀さんのようなだらしない男性が好みだと思っていたけれど、どうやら私の好みのタイプは以前と違ってきているらしい。そう、前ならリーバーさんよりコムイさんのほうが可能性があった。でも、今は……。



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