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『ゾンビ編 4/4』


「で?」と、突然そう言う神田に、「え?」と聞き返す。神田は腕を組みながら私を見上げていた。小さい姿だというのに鋭い目つきは変わらず、本人にその気はないはずなのに睨まれているように見える。



「お前、ヘタレのくせに随分都合良く此処まで来れたじゃねぇか」



鋭いのは目つきだけじゃないんですね。リンクやリーバーさんも疑問に思ったのか、二人して「確かに」と私に視線を向ける。三人の視線を感じながら、「あー、それはー……」と言葉を必死に探す私。やべー…、あんま派手なことするんじゃなかったなー……。ええい、もうどうにでもなれっ!



「あの、ね、前にも同じようなこと体験しまして、ね」



視線は三人ではなく、若干下を向いて言う。私の言葉を聞いて更に疑問を抱いたのか、「前? 以前にも此処で同じ被害があったんですか?」「いや、これが初めてだ」と会話をするリンクとリーバーさん。ただ神田だけはジッと私を見て、「続きを話せやコラ」と目で言っているような気がする。



「此処に来る前、孤島に誘拐されたことがあって……。その孤島はウイルスで化物になった人達がたくさんいて、たまたま化物になってない人達と会ったから、一緒に協力して無事生還したの、です」



説明を終え、「まあ、ざっくりとこんな感じ」と付け足す。



「その、化物になった人達って、元の姿には戻らなかったのか?」
「無理です。ワクチンも無かったですし、化物になったらワクチンを接種しても元の姿には戻れません」



「……殺す以外方法は無かったです」と付け加える。聞いてきたリーバーさんもリンクも「そんな……」と暗い顔をする。神田だけはいつもより随分眉間に皺を寄せている。気まずい雰囲気にしてしまい、「ごめんなさい」と謝ろうと口を開く。しかし、



「リナリーッ!」



コムイさんの切羽詰った声が聞こえ、反射的に声のした方に顔を向ける。そこには倒れているリナリーと、そんなリナリーの安否を確認するコムイさんの姿があった。私が駆け寄るも先に、心配してリナリーに駆け寄ったミランダさんがリナリーの脈を確認する。



「脈は正常みたいです」
「心臓の音にも異常はないみたいだ。恐らく寝ているだけかと」



ミランダさんと、リナリーの心音を確認したマリさんがそう言う。「寝ているだけ」と言う言葉に、コムイさんは安心した表情を見せる。急に意識を失ったということは……、もしかしたらリナリーにとり憑いていた霊がリナリーの体から離れたのだろうか。リナリーとコムイさんを見ながら考えていると、



――歌、いづも歌っでぐれでありがどう



と言う声が耳元で聞こえた。驚いて横を見るけれど、リーバーさんとリンクがいるだけ。しかし、あの声はどう考えても二人の声ではなかったし、神田の声でもなかった。……ということは……。再び、視線を眠ってしまっているリナリーに向ける。「声……」と呟くと、神田が「あ?」と私に聞き返す。



「私の声、ちゃんと届いてた」



私の言葉に、神田が「はあ?」と首を傾げる。ぶっちゃけ、ただの自己満足だった。歌って、声が届いて、死者達が安らかに眠ってくれれば良いな、って。非難されてもおかしくないのに、あの子は、私にお礼を言ってくれた。……無駄じゃ、なかった。ならば私は……、帰れる日が来るまで歌い続けよう。



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