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土方さんと行きついた先は道場だった。
道場の中を見ると、鍛練している男達がたくさんいた。そりゃそうか。
むんむん、と熱い臭いがこっちまで伝わってくる。
思わず鼻を指で摘んで眉間に皺を寄せていると、隣にいる土方さんが苦笑した。



「臭ぇだろ?」
「え、ええ……」
「毎日掃除してるんだが、鍛練が始まるといつもこうなんだ」
「そうなんですか……」



でも、それほど皆さん頑張ってる、ってことだよな。
一人一人見ていくと、確かに皆真剣な表情で鍛練している。
一人で刀や槍のかまえや攻め方を丁寧に見直している人達や、一対一で対決している人達、複数相手に一人で挑もうとする人達。
さまざまな鍛練をする人達がいて、とても感心する。



「で、お目当ての二人はいたか?」
「あっ……、すみません、探していませんでした」



つい鍛練する人達を眺めてしまい、藤堂さんも永倉さんも探すのを忘れていた。
正直な俺の言葉に、土方さんは呆れたように笑みを浮かべる。
改めて藤堂さんと永倉さんを探そうと、土方さんから道場の中へ顔を向ける。
その時――、



「おっ! 勘介じゃねえか!」



元気の良い男性の声が、後ろから聞こえた。
土方さんと一緒に後ろを振り向くと、上半身裸で首に手拭いを掛けている藤堂さんと永倉さん、赤髪の男性が立っていた。
俺は「お久しぶりです」と言いつつ、頭を軽く下げる。



「どうしたんだ? 俺達に用か?」



藤堂さんの言葉に、俺は「はい」と頷く。
そして、手に持っている小包として利用された布を、藤堂さんと永倉さんに見せる。
すると、永倉さんが「あっ!」と声をあげる。



「それ俺の! まさか、わざわざ届けに来てくれたのか?」
「ええ、今ちょうど時間が空きましたし、ずっと俺が持っていても仕方ないので」



そう言い、永倉さんに小包の布を渡す。
永倉さんは「お前良い奴だなっ……!」と感激しながらも受け取ってくれた。
用も済んだ為、お暇しようとした時、「あ、今千鶴出かけてるけど、どうする? 待つ?」と藤堂さんに聞かれた。
何故そこで雪村が出てくるんだろう?



「いえ、雪村に用があったわけではないので。迷惑になりますし、俺は帰ります」



俺がそう言うと、藤堂さんと永倉さんは複雑そうに顔を見合わせる。
そして、苦笑しながら「あー…、そうか……」と言う藤堂さん。
俺は、何故苦笑しているのだろう、とまたまた疑問に思う。



「あっ! そうだ! 俺達さ、勘介に食べてもらいたいものがあってさ! なっ、新ぱっつあん!」
「えっ!? あ、ああ、そうだったな! 是非とも勘介に食べてもらいたくてもらいたくて!」



なんだか焦った様子で会話をする藤堂さんと永倉さん。
隣にいる土方さんが「何言ってんだ、お前等……」と呆れ果てている。
どうも嘘っぽい会話だが、俺を此処に引き留めたいのだろうか。



「本当な、俺達が作った料理美味いんだぜ!」



藤堂さんがそう言った瞬間、便乗していた永倉さんも、その隣にいる赤髪の男性や土方さんも、口角を引き攣らせた。
…………なんだ、この不安感。
この人達が料理を作ったらヤバそうな気がしてならないのだが。



「ま、まあ行こうぜ!」



汗ダラダラながらも必死に笑みを作る藤堂さんに、腕を掴まれて引っ張られる。
非常に逃げだしたくてたまらない。
が、これはもう……、腹を括るしかないのかもしれない……。
俺は生きて帰ることが出来るだろうか……。


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