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客が少なくなったのを見計らって、俺は再び新選組屯所を訪れた。
……のは良いのだが、門番の人が居ないようで、新選組屯所の門には誰もいなかった。
このまま入ってしまっても良いのか困る。
けれど、このままずっと渡せず終いっていうのも、藤堂さんと永倉さんに悪い。
俺はどうすれば……。



「――おいお前、屯所の前で何してやがる」



「うーんうーん……」と悩んでいると、後ろから声をかけられた。
悩みすぎて気配に気づかなかった俺は、その声に驚いて後ろを振り向く。
そこには、黒髪でひとつに結っている男性を筆頭に、ズラーッと人がいた。
先頭にいる男性が俺を怪しげに見ている。
藤堂さんや永倉さんと同じように浅黄色の羽織を着ているということは、この人達も新選組のようだ。



「あの、藤堂さんか永倉さんいませんか?」
「……アイツ等に何の用だ?」



質問を質問で返されてしまった。



「以前お団子を貰った際に、小包も貰ってしまって……。藤堂さんか永倉さんの物だと思って、返しに来たんです」



そう言い、俺は綺麗に畳んだ小包を見せる。
筆頭の男性はその小包を見ると、「成程な」と言い、小包から俺に視線を変えた。



「分かった、入ることを許可する。だが、用が済んだら帰れよ」
「はい、有難う御座います」
「今頃あの二人は鍛練でもしてるだろうな……、俺が案内してやる」



男性はそう言うと、後ろに居る人達に「巡察御苦労だったな。それぞれ休んで良いぞ」と言う。
後ろに居る人達は「はい!」と元気よく返事をすると、それぞれバラバラになって去っていった。
それを見て、男性は俺に顔を向けて「行くぞ」と言い、歩き出した。
俺は慌てて男性を追いかける。



「あ、あの、本当に有難う御座います」
「勘違いするなよ。得体の知れない男が屯所内でうろうろされるのが困るだけだ」



あれ……、これ前にあやめ姉さんが言ってたツンデレってやつかな……。



「俺、近衛勘介といいます。名前、伺っても?」
「……ああ、土方歳三だ」
「土方、さん……。もしかして、副長殿だったりします?」



俺の言葉に、土方さんは眉間に皺を寄せる。
まるで、「だったらなんだ」と言いたそうだ。
俺はこれ以上何も言うまい、と口を閉じる。
俺が知っている「土方」は、「土方歳三」ではなくて「土方十四郎」なんだけど……。
別世界のしんせんぐみでも、どこか違った箇所があるみたいだ。



「……お前、どこの者だ?」
「え? どこの者、と言いますと……?」



てっきりお互いに喋らないまま藤堂さんと永倉さんの所に行くと思っていた為、急に話しかけられて驚いてしまった。
土方さんに顔を向けると、土方さんも俺を見ていたようで、視線が交わった。



「間者か、そうじゃねえのか聞いている」
「え、間者だなんて……。俺、西園寺薬屋で働いているんです。疑っていらっしゃるようなら、是非来てください」
「……そう言って何か買わせる気だろう?」
「……バレました?」



苦笑する俺。
そんな俺を見て、土方さんは溜め息をついた。



「にしても、あの馬鹿二人とどこで知り合ったんだ?」



馬鹿って、今馬鹿って言った。
土方さんの言葉に、俺は「あー……」と言いつつ視線を逸らす。
これ話したら自意識過剰って思われないかな……。



「実は、その……、女の子達に囲まれているところをですね、助けられまして……」



ごにょごにょと小声で言う。
しかし、きちんと土方さんに聞こえていたらしく、土方さんは俺の言葉を聞いて俺に哀れみの目を向けてきた。
…………土方さんでもそんな目するんですね……。



「西園寺薬屋の評判は嫌でも耳に入る。薬は勿論、接客している若い男も良いってな」
「え……、それってまさか……」
「ああ、お前のことだろう。……お前も苦労してるんだな」
「……そう言う土方さんこそ、顔が整ってますから苦労してるんでしょうね……」



お互いに遠い目になってしまう俺と土方さん。
まさか土方さんとこんなに話が合うとは思わなかったな。
「鬼の副長」と言われているくらいだから、とても厳しくお堅い人かと思っていたけれど。


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