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「ど、どうぞ……」



震える手で味噌汁を差し出され、俺はどうしようか困った。
お茶を淹れてくれたのは、原田左之助さんという赤髪のイケメンで、そのお茶は普通に美味しい。
……が、藤堂さんが差し出した味噌汁は、なんというか……、色がまず味噌汁の色ではなかった。
味噌が少ないのか、わかめが多すぎなのかは分からないが、とにかく変色している。
その味噌汁を見て、土方さんと原田さんも思わず目を背けている。



「い、イタダキマス……」



流れとはいえ、せっかく俺の為に作ってくれた味噌汁。
俺が食べないと失礼だろう。
大丈夫、俺は忍だ。
こういう時の為に毒に耐性を付けてきたじゃないか。
意を決し、味噌汁が入ったお椀と箸を手に持ち、ズズ、と味噌汁を口に含む。



「っ…………」



味は最悪。
今までに食べたことのない珍妙な味だ。
が、俺は吐きそうになるのを堪え、ゴクン、と飲みこむ。
味が口の中に広がっているせいか、いまだに吐きそうだが、味噌汁は飲みこむことが出来た。



「か、顔! 顔青いぞ!」
「お茶飲めって!」



藤堂さんには肩を掴まれ、永倉さんにはお茶を勧められる。
永倉さんから受け取ったお茶を口に含み、飲み干す。



「っ、はあ……」
「ご、ごめんな? 俺達も不味いって分かってたんだけど……」



なんとか吐き気は少し収まり、息を整える。
藤堂さんが俺に申し訳なさそうに謝ると、藤堂さんの隣にいる永倉さんも「悪かったな……」と謝ってくれた。
俺は苦笑しながら「いえ」と一言言う。



「お前も見た目で不味いって分かってんだから、やめときゃ良かったのによ」
「そういうわけには……」



呆れている原田さんの言葉に、俺は再び苦笑する。
それにしても、藤堂さん達がこうまでして俺を引きとめた理由は何なのだろうか。
特に用は何もないようだし、俺が此処にいても新選組に利益になることなどないだろう。
……もしかして、雪村のことか……?



「そういえば、俺達無理矢理この場に留めちまったけど、店のほう大丈夫か?」



周りに花を散らせながら笑みを浮かべている雪村を頭に浮かべていると、永倉さんがそう聞いてきた。
まだ気持ち悪さが残りつつも永倉さんに顔を向けると、永倉さんは申し訳なさそうな表情をしながら俺を見ていた。
俺は慌てて笑顔を作り、口を開く。



「大丈夫だと思います。調度お客様がいない時を見計らって来たので」



俺がそう言うと、永倉さんは「そうか……」と納得したが、まだ申し訳なさそうに俺を見ている。
と、その時、廊下の方で数人が此方に向かって来る気配がした。
それに気づきつつも、さすがに忍であることを話せるわけがない為、気づかないふりをする。
そして、



――スッ
「ああ、土方さん、こんな所にいたんですか」
「副長、只今帰りました」



この部屋の障子を開けて入ってくるのは、飄々とした笑みを浮かべた男と、堅物そうな無表情の男。
それから、俺を見て顔を赤くし、口を金魚のようにパクパクさせている雪村。



「お邪魔しております。西園寺薬屋で働いている近衛勘介と申します」



初めて会う男二人に体を向け、頭を軽く下げる。
頭を上げると、男二人を俺を見ていて、一方は興味無さそうに「ふーん」と言い、一方は丁寧に「新選組三番隊組長、斎藤一だ」と自己紹介をしてくれた。
斎藤さんとやらは礼儀正しいな。



「なっ、なんで居るんですか!? どうかしたんですか!?」



今まで俺を唖然と見ていただけの雪村が、焦ったように勢いよく俺の目の前に来た。
その勢いはいつもの彼女からでは考えられず、俺が来たことによって混乱させてしまったらしい。



「藤堂さんと永倉さんに小包を返しに来たんだ」
「小包……?」
「ほら、以前団子を貰った時の」
「ああ、あの時の……」



俺の言葉を聞いて納得し、先程までの勢いを消してしおらしくなった雪村。
俺はそんな彼女に笑みを零す。
雪村は俺の笑みを見ると、一気に顔を赤くし、恥ずかしそうに顔を俯かせた。



「あの、俺、そろそろ失礼しますね」



藤堂さんと永倉さんに顔を向けてそう言う。
二人はなんだかニヤニヤしながらも「おう」「またな」と言ってくれた。



「あ、それから原田さん、お茶有難う御座いました。美味しかったです」
「ありがとな、また来いよ」



格好良く優しく微笑む原田さんに、俺も笑みを浮かべて「はい」と返事をする。
あ、それからまだある。



「藤堂さんと永倉さんも、えっと、……お味噌汁ゴチソウサマデシタ」
「カタコトじゃねぇかよォォオオ!」
「気ィ使うなよ泣きたくなるだろォォオオオ!」



思わず目を逸らしながらカタコトで言う俺に、藤堂さんも永倉さんも涙目になりながら反抗してきた。
俺は返す言葉もなく、ただ苦笑した。
会話も済み、俺は「よいしょ」と内心言いながら立ち上がる。
その時に雪村がハッとした表情で立ち上がろうとしたが、「大丈夫だ」と言って止めた。
きっと以前のように俺を門まで送ろうとしたのだろう。出来た子だ。



「お邪魔しました」



一人一人皆さんに頭を下げ、藤堂さんと永倉さんの「またなー」と言う声に背中を押されながら部屋を出た。


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