▼09

「ただいま帰りました」



若松さんが営んでいる薬屋に帰ってきた。
薬屋に入ると、若松さんは薬棚の整理をしていた。
そして、俺の顔を見るなり、驚いた表情で小走りで駆け寄ってくる。



「勘介っ、あんた、大丈夫やったか!?」



いつもの若松さんではない、焦ったような心配したような表情に、俺は思わず笑ってしまう。
そういえば、俺が任務で怪我をした時、全蔵兄さんもこんな感じに心配してくれたっけ。
「てめっ、マジかよその怪我オイ! ちょっと待ってろ救急車呼んでくる!」ってな。
そんな救急車呼ぶ程じゃなかったっていうのに。



「大丈夫です。むしろ皆さんお優しかったですよ」



と言っても、雪村と藤堂さんと永倉さんの三人しか会っていないけど。
俺の言葉に、若松さんは「はあ……」と溜め息をついた。
どうやら凄く心配してくれていたらしい。
こう言ってはなんだけど、心配してくれるのは凄く嬉しいことだ。



「まあ、勘介に何もあらへんかったんならええんや」



そう言い、俺の頭をポンポンと軽く叩く若松さん。
やばい、嬉しすぎる。
まるで亡き父のようなことをする若松さんに、少し涙が出そうになる。
それを紛らわす為、「あっ」と声に出し、持っている小包を若松さんに差し出した。



「新選組の人が、饅頭をくれたんです。あとで一緒に食べましょう」
「なに? 饅頭やて? ……毒入りやおまへんやろうな?」
「ちょ、どんだけ新選組疑ってんですかァ! 大丈夫ですって!」



若松さんがあまりにも新選組を疑うので、思わず苦笑してしまう。
「さ、早く食べましょう」と店の奥の部屋に向かう。
若松さんは「しゃあない」と言い、俺の後ろに着いて来てくれた。
きっと若松さんも饅頭食べたいんだろうな。



「ん? こん饅頭、最近開店し始めた店の饅頭や」



小包を開けて、中に入っている饅頭の箱を開ける。
すると、若松さんが饅頭を見てそう言った。
俺は「へえ、そうなんですか」と返事をしながら、饅頭のひとつを若松さんに手渡す。



「人気やから行列ができはるらしい。よお買えたなァ」



そうだったのか。
藤堂さんと永倉さんは、わざわざ行列に並んでまで買ってくれたのか。
やっぱり、良い人達だな。
自然と頬が緩むのに気づきながら、俺は饅頭を手に取って一口食べる。



「ん、美味しい」
「ほんまや」



行列が出来るだけあって、この饅頭は本当に美味しい。
買ってくれた二人に感謝しないと。



「小包、返しに行かないとなァ……」
「また新選組に行きはるんか?」
「ええ、そうしようかと」



この包みとして使われた布は藤堂さんか永倉さんの物だし。
さすがに返しにいかないと申し訳ないだろう。



「勘介は律儀やなァ。普通なら新選組を怖がって返しに行こうなんて思わへんよ」



そう言いながらも饅頭を食べ続ける若松さん。
俺は若松さんの言葉に「そうだろうか?」と思いつつも、二つ目の饅頭を手に取って口に含む。
まあ確かに、俺も最初は警戒してたけどな。


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