▼08
「――じゃあ、俺そろそろ帰るわ」
「あ、はい」
美味しいお茶を飲み干し、立ち上がる。
俺の言葉に、雪村も慌てて立ち上がった。
どうやらお見送りをしてくれるらしい。出来た子だ。
「あれっ? もう帰んの?」
「なんだよ、俺達帰ってきたばっかだっつーのによォ」
部屋を出ると、そこには雪村と一緒にいた筋肉質の男性とポニーテールの少年が居た。
巡察が終わり、帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、平助君、永倉さん」
「おう、ただいま」
「ただいま」
笑顔で言う雪村に、”平助君””永倉さん”と呼ばれた二人も笑顔で返事をする。
次に、俺へと顔を向けた。
名前を教えてもらっていない為、どちらが平助君で、どちらが永倉さんか分からない。
……あ、俺も名前言ってなかった。
「改めて、近衛勘介です。宜しくお願いします」
「勘介っていうのか! 俺は藤堂平助!」
「俺が永倉新八だ。よろしくな!」
ニカッ、と笑う二人に、俺もつられて笑みを浮かべる。
すると、何故か隣にいる雪村が誰にでも分かる程顔を赤くした。
「大丈夫だろうか」と心配になり、雪村に顔を向けると、顔を逸らされてしまった。
……あるぇー……。
「……あー……、そういうこと、か……」
「罪な男だなァ……」
俺と雪村を見て、苦笑する藤堂さんと永倉さん。
女タラシ、という意味だろうか。
……好きでこんなにモテモテになったわけじゃないぞ、うん。
「で、此処だけの話、千鶴とはどこまでいったんだ?」
ボソッ、と俺の耳元でそう聞く藤堂さん。
その言葉に、思わず「は?」とアホじみた声を出してしまう。
「とぼけんなよ。ほら、教えろって」
「い、いやいやいや、なに勘違いしてるんですか。俺達はそういう仲じゃないですよ」
確かに、雪村は可愛いけど。
でも、ただ助けて、お礼をしたされたの仲だし。
雪村だって、ちゃんとした恋愛感情で俺を見てはいないと思う。
「本当に〜?」
「本当です」
苦笑しながら言うと、藤堂さんは「なんだ」と少しガッカリした表情をあらわにした。
会ったばかりの俺よりも、藤堂さんたちのほうが雪村と恋人になる確率が上だろう。
藤堂さんも永倉さんも顔良いし、話した感じ性格も面白そうで良さそうだし。
「あ、そうだ。勘介、これお前に買ってきたんだ。受け取ってくれ」
そう言い、永倉さんが何かを俺に差し出した。
それは、小さな小包。
首を少し傾げ「これは?」と聞くと、「饅頭だ」と返事が返ってきた。
「買い物途中だったのに、無理矢理連れてきちまったからな。詫びだ」
「い、いやいやいや! いいですって!」
「いいや! 俺の気が済まねえんだ! 俺の為にも受け取ってくれ!」
そう言い、ズイッ、と小包を俺に押し付ける永倉さん。
俺は落ちないように慌てて小包を受け取る。
「じゃ、じゃあ、ありがたく受け取っておきます」
「おうっ」
やっと小包を受け取った俺に、永倉さんは眩しい程の笑みを浮かべた。
饅頭いくつ入ってるのか知らないけど、帰って若松さんと一緒に食べよう。
「じゃあ、俺はこれで」
「おう、また会おうなっ」
「此処に来て俺か新ぱっつぁんの名前言えば、多分中に入れるから」
「はい」
それはつまり、また此処に来い、ということか。
「あのっ、近衛さんの薬屋、機会があれば行きますねっ」
「ああ、是非来てくれ。楽しみにしてる」
ニコッ、と雪村に向かって微笑む。
雪村は俺の笑みを見て、俺にも分かるほど顔を赤くした。
そして、噛みながらも「は、はいっ」と返事をする。
なんて素直で可愛い反応をするんだ。
あやめ姉さん、少しは見習ってくれよ。
そんなこんなで、俺は新選組屯所を後にした。