▼07

あれから、若松さんに無断で真選組屯所に行くのもどうかと思い、一旦帰った。
若松さんは真選組を見て驚いた表情をしたけれど、事情を説明すると、真選組屯所に行く許可をしてくれた。
だが、その際に若松さんは、
「勘介を傷つけるようなら、真選組やろうと許しまへんよ」
と、滅茶苦茶かっこいい言葉を、真選組に向かって言ってくれた。
若松さん、俺あなたに助けてもらって本当に良かった。



「……お……?」



で、今は既に真選組の屯所前に居る。
門に掛けられている板の文字を見て、俺は目をパチパチとさせ、呆然とした。
”新選組屯所”
そう書かれている、門に掛けられている板。
俺が知っている「しんせんぐみ」は「新選組」ではなく「真選組」。
……漢字が違うこともあるのか。
その違いについては一切考えてなかった。



「さ、行こうぜ。今日は皆ほとんど出かけてて居ないしさ」



ポニーテールの男性が、ニカッ、と笑顔を浮かべながら言う。
そして、バンダナの男性と一緒に、屯所内へと足を動かした。
それを見て、俺と女の子も屯所内へと入る。
……緊張する……。




 ***




「ど、どうぞ」
「ああ、ありがとう」



頬を赤らめながらも、俺にお茶を出してくれる女の子。
その指先は少し震えていて、初々しい。
ポニーテールの男とバンダナの男は、まだ巡察が残ってるらしく、再び出かけて今はいない。



「わ、私、雪村千鶴といいます。先日は、助けていただいて本当に有難う御座いました」



そう言い、正座した足の前で丁寧に手を添え、頭を下げる雪村千鶴と名乗った女の子。
礼儀正しすぎて、俺がいた世界の連中がどれだけ非常識だったのか、今ではよく分かってしまう。



「どういたしまして。俺は近衛勘介っていうんだ」



そう言うと、雪村は「近衛勘介さん……」と、俺の名前を覚えるように呟いた。
全蔵兄さんだったら絶対名前覚えようとしないだろうなァ。
初めて会った時、俺の名前覚えようとせず、ずっと「モテ男」って呼んでたもんな……。
今はちゃんと名前で呼んでくれるようになったけど。



「そういえば、雪村ってなんで新選組にいるんだ?」
「え?」
「いや、女の子が新選組にいるって、異例じゃないかなあ、と」



俺の言葉に、雪村が目を丸くして驚いた。



「わ、私が女だって気づいてたんですかっ……!?」
「え、ああ、どう見ても女だろ」



男装していても、男と女じゃ、顔のつくりが違うし。
腰の細さも、声のトーンも、全然違う。
俺が忍だから、この違いが大きく見えてしまうだけなのかもしれないが。



「えっと、あまり詳しくはお話出来ないんですけど、色々あって、今は新選組に居させてもらってるんです」
「色々っていうのがどういうのか分からないが、保護された、ってことか?」
「はい、簡単に言ってしまえば」



成程、な。
男装しているのは、男だらけの新選組の中にいるからだろう。
雪村が女だと分かってしまえば、飢えてる男共は雪村を襲うかもしれない。
不祥事が起こらないよう配慮する為、雪村は男装しているわけだ。



「……大変な所に居るんだな」
「え、ええ、まあ……。でも、皆さん良くしてくれますし、割と普通にやっていけてます」



苦笑しながら言う雪村。
今まで、相当苦労することがあっただろうに。
雪村が何を抱えているのかは知らないが、こんな純粋な子を陰らせるのは気に食わない。



「”西園寺薬屋”って知ってるか?」



そう言い、雪村が淹れてくれたお茶を、ズズーッ、と飲む。
うお、美味しい……、と思っていると、雪村が「えっと……」と顎に手を当てて何かを思い出す素振りを見せる。
そんな雪村を見て数秒後、「あ」と声に出す雪村。



「女の子達がよく話している薬屋、ですよね」



え、よく話してるの。
それは知らなかったぞ、俺。
まあ、多分それだろう。



「俺、そこで住み込みで働いてるんだ。何か用があれば、いつでも訪ねて来て良いぞ」
「えっ!?」



俺の言葉に、雪村が再び驚きの顔をあらわにする。
そんな素直な雪村の反応に、クスクス、と笑みが零れてしまう。
滅多に巡り会えないタイプだ、雪村は。



「で、でも、近衛さんに御迷惑が……」
「俺から言いだしたことなのに?」
「それは、そうですけど……」



「うーん……」と複雑そうな雪村の顔。
……俺ってば、会って間もない人になんてこと言ってるんだろう。
しかも相手が女の子って……。
なんだか女タラシみたいじゃないか、心外だ。
一応「迷惑だったら良いんだ」と言うと、「め、迷惑じゃないですっ!」と食い気味に言ってくれた。


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