第七話「朝は苦手なわけで」


ふわふわした温かい布団に包まれながら、私は目を覚ました。隣を見ると、半透明のタカ丸が私と一緒に寝るかのように横になりながらスヤスヤ寝ている。……夢じゃなかったのか。



「……はー……」



寝起きである為か、声が心なしか擦れている。まだ眠いし、布団から出たくない。でも、そのうち監視役の立花さんと潮江さんが部屋に訪れるだろう。久々知さんは来るか分からないけれど、来るとしたら昨日お願いした本を持って来そうだ。



「起きるのだりぃー……」
――女の子がそんな言葉遣いしちゃ駄目だよー。
「……ああ、起きてたの」
――うん、ついさっきね。



寝ながら隣を見ると、タカ丸も寝ながら私を見てニコニコ笑みを浮かべていた。よく見れば、タカ丸も綺麗な顔立ちをしている。なんだよ、室町時代って顔良い人多くないか? そう思っているうちに、タカ丸はいつの間にか体を起こし、正座をしながら私を見ていた。それにしても、朝から喋るの疲れる。



――ほら、起きて。もうすぐで仙蔵君と文次郎君が来ちゃうよ。
「うーん……」



小さい頃から、朝早く起きることは苦手だ。低血圧っていったっけ? 多分それ。
それにしても、今思えば、なんて馬鹿げた話なのだろう。私にしか見えない幽霊が居て、その幽霊を成仏させる為に過去に飛ばされ、忍者を育成する学校に居候することになった、だなんて。未来に帰ってお兄ちゃん達に話したとしても、絶対に信じてくれない話だ。



――花南ちゃん、朝苦手なんだね。
「うん……」



苦手よ、超苦手。朝起きると、声は擦れてるし、頭痛いし、体動かないし。すんなり起きれる人が羨ましい。例えばタカ丸。



「鈴村、入るぞ」



障子の向こう側から、立花さんの声が聞こえた。その言葉が聞こえ終わったと同時に、障子が開いた。その開いた障子の向こうには、立花さんと潮江さんが立っていた。二人は、目を開けながらも未だに布団の中に寝転がっている私を見て、ため息をつきながら呆れる。酷い。



「目が覚めているなら起きろ。いつまで寝ているつもりだ」
「二度寝します」
「……お前が朝弱いことが、よ〜く分かった」



分かっていただいて光栄です、潮江さん。だから二度寝させて。心の中でそう言い、私は再び瞼を閉じる。が、「起きろバカタレィ!」という潮江さんの怒鳴り声と共に、ベシィン!、と額を叩かれてしまった。「いだっ!」と痛みの走った額を手でおさえ、体を丸める私。



「フン、まるでダンゴ虫のような格好だな」
「潮江さんのせいですよ……」
――花南ちゃん、大丈夫?



哀れな私を心配してくれるタカ丸が天使に見える。



「大丈夫じゃい、バカタレィ」
――ふふ、大丈夫そうだね。
「オイ、それ俺の真似か? 俺の真似なのか?」



潮江さんの言葉をスルーし、目を閉じる。そしたら、再び「寝るなと言っとろうが!」と怒鳴られ、再び額を、ベシィンッ!、と叩かれてしまった。おいおい、勘弁してくれよ、ジョニー。ガールには優しくって習わなかったのかい? HAHAHA!



「鈴村、今日はお前に学園内を案内してやる」
「いや、いいです。めんどいんで」
「素直だな。だが、異論は認めんぞ。学園内を案内するのは、タカ丸の為になるかもしれんのだからな」



タカ丸の為? 立花さんの言葉に疑問を持ち、布団に埋めていた顔を立花さんへと向ける。



「タカ丸は幽霊となり、500年以上の時を経てお前と出会ったのだろう? なら、学園内の記憶も薄れているだろうと思ってな」



成程。立花さんの言った通りなのか、タカ丸は「そういえばそうだなあ」と頷いている。仕方ない、タカ丸の癒し笑顔を見れるのなら行ってやろう。でもまあ……、もうちょっと温まってからで良いですか? 聞いてみると、潮江さんに呆れながら「早くしろ」と言われてしまった。


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