第六話「ひとときの安らぎ」


「は? 今なんと?」



今からお風呂タイム。さっぱりスッキリ体を綺麗にして心を休める。今日は一日信じられないことが多く、挙句の果てには戦国時代の忍術学園というところに居候することに。おほほ、夢でありますように。……っと、問題はそこではない。いや、重要だけれども。今は、また他に問題があるのだ。



「お前が風呂に入っている間、私達は監視としてお風呂場の前で待っている」
「だから、安心して風呂に入れ」



ふむふむ、なるほど。……いや……、



「問題は、そこじゃなくてですね……」



チラッ、と横にいるタカ丸を見る。先程のタカ丸の証言によると、タカ丸は私から一定の距離以上離れると悪霊になってしまう、らしい。その一定の距離が分からないから、むやみにタカ丸を離れさせるわけにもいかないのだ。



「タカ丸さ、私が着替える時とか裸の時とか、絶対後ろ向いててね?」
――勿論だよ。女の子の肌は、そう簡単に見ちゃいけないもんね。
「見たら協力しないからな?」
――わ、分かってるって。心配性だなあ。



苦笑するタカ丸。……まあ、この様子なら私の貧相な体を見られることはないだろう。
ふと、あることに気づき「あっ、着替えどうしよ……」と呟く。着替えのこと、すっかり忘れてた。……でも、持っていないものは仕方ないか。同じ服で我慢しよう。そう思っていると、「着替えが無いなら、私の小袖をお貸ししますよ」と久々知さんが言ってくれた。えっ! 良いんですか!



「文次郎先輩と仙蔵先輩の小袖だと、恐らく大きいでしょうし」
「有難う御座います! 凄く助かります!」



素直にお礼を言うと、久々知さんは「いいえ」と首を横に振った。
それにしても、この三人は何故小袖を持っているのだろう。男の人なんだから、普通は女物の小袖なんて必要ないと思うのだけれど。……あっ、そっか。此処は忍者を育成する学校。つまり、この三人もいずれは立派な忍者になるわけで。きっと、任務の中には女装についての任務もあるのだ。だから、三人共、女物の小袖を持ってるんだな。納得。




 ***




薄黄色をメインに、橙色のたんぽぽ柄。久々知さんから貰った小袖は、意外にも活発な性格を連想させる小袖だった。でもその小袖はとても可愛らしく、私には勿体無い。本当に借りちゃっても大丈夫だったのかな。



「タカ丸、こっち見ちゃ駄目だからね」
――はーい。



私の言葉に、タカ丸は顔を少し赤くしながらも私に背を向ける。初心な奴め。
タカ丸の様子を見ながら、私は自分の来ている服を脱ぎ始める。そういえば、タカ丸の髪の毛ってなんで金色なのかな。室町時代で金髪って、相当珍しいと思うけれど。そういえば、立花さんの髪の毛の色も、ちょっと紫がかってたな。私が知らないだけで、髪の毛の色って結構気にしない時代なのかも……?



「タカ丸、行くよ」
――え、ど、どうやって……?



あー、そうか。タカ丸は私に背を向けてるんだもんな。後ろを確認しながら後ろに歩くことは難しいか。……ならば。



「タカ丸、此処に居て良いよ」
――えっ!? で、でも、離れたら……、
「この着替え場から中まで距離は遠くないし、大丈夫っしょ」



私の言葉に、タカ丸は「う〜ん……」と、腕を組んで悩み始める。そんなタカ丸を見て苦笑しつつ、私は迷わずに中へと入る。私が中に入るのが分かったのか「え、ちょっ!?」と、タカ丸が此方を見ずに焦った。ふはは、安心せい。私も、なるべく近くに寄って体洗ったり頭洗ったりするから。
桶にお湯を入れ、頭から被る。温かいお湯を浴び、少しだけ癒される気がした。ふと、棚の上にシャンプーとリンスが置かれていることに気づいた。……この時代にあったっけ……?



「…………」



まあ、良いか。使える物は使っておこう。シャンプーへと手を伸ばし、プッシュしてシャンプーをいつも通りの量を手の上に出す。それを少し泡立てながら、髪の毛につけ、わしゃわしゃ、と髪の毛を巻き込みながら更に泡立てる。ふと、突然のかゆみに我慢できず、ガシガシ、とかゆくなった前髪辺りを掻く。次第にそのかゆみは無くなっていき、代わりにスッキリとしてきた。なんだかシャンプーだけで清々しくなったので、リンスは面倒くさくなってきた。まあ、一日くらいリンスやらなくても良いよね。



――ザバァーッ



そろそろ頃合いだと思い、桶にお湯を入れ、目を瞑りながら頭にお湯をかける。けど、それだけではシャンプーは完全に落としきれないわけで。私は、それから数回お湯を頭から被った。



「……これだけやれば、きっと大丈夫だよね」



濡れた髪の毛を触って、手を見てみる。でも、泡はどこにも付いていない。OK、大丈夫だ。私はちゃんと泡を落としきれていた。……体、洗わなきゃ。でも面倒くさい。でも洗わなきゃきっと汗臭い。……よし、洗おう。ボディソープを手に取り、そこら辺に掛けてある手拭いを手に取り、両方合わせてゴシゴシと泡立てる。面倒くさいから、しっかり泡立てた状態にせず、少し泡立っただけの手拭いを体に押し付けて、ゴシゴシ、と洗う。



「なんか、疲れた……」



このまま寝てしまい。でも、絶対に風邪引くし、タカ丸や立花さん達に迷惑をかける。何より、こんなお粗末な体を見られたくない。「早く出て寝よ」と呟き、私は自分の身体にお湯をかけた。


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