第五話「黒髪の美形な少年」


あれから色々話をして、潮江さんが久々知兵助という人を連れてきてくれることになった。恐い人だと思っていたけれど、根は優しい人なのかもしれない。立花さんは、綺麗な顔立ちで高貴な人だと思っていたけれど、意外と話しやすい。私が人見知りだと分かるのか、話題を作ってくれる。ありがたい。



「連れてきたぞ」
「久々知兵助です。失礼します」



潮江さんと久々知兵助と名乗る男の声が聞こえ、部屋の障子が開いた。潮江さんの後ろには、これまた綺麗な顔立ちをした男が居る。美形多くねえか?



「久々知兵助と申します。事情は潮江先輩から聞きました」
「あ、えっと、鈴村花南といいます」



正座をし、私に頭を下げる久々知さんは何から何まで綺麗だ。それに見惚れつつ、私も、ペコッ、と頭を下げる。顔を上げて久々知さんの顔を見ても、やっぱり綺麗で見惚れてしまう。じっと見ていると、「タカ丸さんは、どこにいますか……?」と弱々しく出たその言葉。私は久々知さんを心配しながらも、右隣を見て「此処に」と言う。その言葉に、久々知さんは私の隣へと視線を向ける。



「……見えない、みたいです……」
――兵助、君……。



まるで自分を嘲笑うかのように、弱々しく言う久々知さん。その表情が痛々しく、見るに堪えない。そんなに、タカ丸のことを思ってくれているんだ。この人にも、タカ丸のことを見せてあげたい。此処に居るんだ、って実感させてあげたい。



「タカ丸、久々知さんのこと見てます」
「え……?」



タカ丸の様子を見る為に、タカ丸を見ながら久々知さんへと言う。私の言葉に、久々知さんは俯かせていた顔を上げ、私へと顔を向けた。タカ丸は、久々知さんの隣へと移動し、久々知さんの手に自分の手を添えた。そして、苦笑しながら「ごめんね」と謝った。



「今、久々知さんの隣で、久々知さんの手に触れて、”ごめんね”って謝ってます」
「タカ丸、さんが……?」
「はい」



私の言葉に、久々知さんは目から涙を流す。目の周りと鼻を少し赤くし、綺麗に泣いている。タカ丸は、そんな久々知さんを見て、同じように泣いている。お互いにお互いが泣いているのは、私とタカ丸しか知らない。




 ***




「ぐずっ、すみません、泣いてしまって……」
「ああ、いえ、泣かせてしまったのは私ですし……」



なんとか落ち着きを取り戻した久々知さん。タカ丸は、未だ久々知さんの隣から離れる様子はない。



「鈴村、タカ丸は今どこに?」
「あ、まだ久々知さんの隣にいます」
「だ、そうだ。良かったな、兵助」
「ぐずっ、はいっ……!」



泣き腫らした顔で、嬉しそうに笑みを浮かべる久々知さん。その表情でさえ綺麗のなんの。どうやったら綺麗に泣いたり笑ったり出来るんだか、是非とも知りたいものだね。



「にしても、三木ヱ門達はどうする? アイツ等に会わねえと、タカ丸は成仏出来ないんだろ?」
「そうですね、なんとかしてタカ丸の姿を見せることが出来れば良いんですけど……」



でも、そんな方法は私は知らないわけで。調べようにも、持っていたスマホは何故か今は無く……、っていうか私の持っていたバッグ自体無い。バッグの中にスマホ入ってるのに。この時代にパソコンがあるわけないし、他には本くらしかないな。
ふと、「ところで、ずっと思っていたことを聞いて良いか?」と聞かれ、立花さんに顔を向けると、立花さんは真剣な表情で私を見ていた。え、何言われるんだろう。



「タカ丸はお前に乗り移ることは出来ないのか?」



………………、



「それだァァアアアアアア!」
「は?」
「あ?」
「え?」



上から立花さん、潮江さん、久々知さん。各々のリアクション有難う御座います。そして立花さん、本当に更に有難う御座います。



「そうですよね、タカ丸は幽霊なんですもんね、私に乗り移れば全部解決じゃないですか、なんで気づかなかったんだろう」



私は相当馬鹿だ。こんなにも簡単な解決方法を思い出せなかっただなんて。とりあえず「おい、アイツ馬鹿なのか?」「文次郎より馬鹿らしい」と会話をしている潮江さんと立花さんはスルーしても良いよね。アレ私の悪口だもんね。



「Hey! タカ丸、Come on!」
――へ? 家紋?
「……いいから早く来なさいな」



冷たく言うと、タカ丸は「ええ〜? なんで怒るの〜?」と苦笑しながら言ってきた。黙らっしゃい、タカ丸よ。



――でもね、花南ちゃん。僕が花南ちゃんに乗り移っちゃうと、僕はどんどん悪霊になってっちゃうんだよ。
「……はっ?」
――あ、花南ちゃんから一定以上離れても悪霊になっちゃうんだ。
「え、な、」
――だから、僕は花南ちゃんに乗り移ることも、離れることも出来ないんだよ。



何、意味分かんない、どういうこと?



「どうした?」
「な、なんか、私に乗り移るとタカ丸が悪霊になっちゃうみたいッス、うッス」
「は?」



私の言葉に、立花さんも、潮江さんも久々知さんも、「訳が分からない」という顔をしている。うん、私も分からない。タカ丸を見ると、「ごめんね」と苦笑しながら謝っていた。うーん、どうしたものか。やっぱり本で調べるしかない、か? それ以外に方法はない。「書庫ってあります?」と三人に聞くと、「外は危険だぞ」と立花さんに言われてしまった。



「あ、そういうことなら、明日役立ちそうな本持ってきましょうか?」
「えっ、良いんですか?」
「はい。潮江先輩と立花先輩は監視役ですから席を外せませんし、手が空いているのは俺だけなので」



ひゃーっ! なんて頼りがいのある協力者! いよっ、美形!
「じゃあ、お願いします」と頭を下げると、「はい、お任せください」と笑みを浮かべる久々知さん。あなたなんて綺麗なんだ。


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