踏んだり蹴ったり
連れてこられたのは、10畳くらいの一室だった。 どうやら今日は学園長先生とやらは出かけているようで、帰ってくるまで監禁されるらしい。早く帰らないと、お母さんたちが心配するのに。今日の私は運が無いのかもしれない。
「…………」
一室に監禁され、監視係も付けられてしまった。その監視係というのが人数が多く、七松君、先程の男、他4名。合計6人の男に監視されている。しかも、全員深緑色の忍装束を着ているではないか。忍者怖い。本物かどうかは分からないけれど。 壁に背中を預けながら体育座りで大人しくする私。そんな中、七松君がチラッチラッと私に視線を向ける。そんなに私が心配なんだろうか。それとも、こんなことになってしまった罪悪感を感じているのか。……どちらでもいいか。
「首、少し怪我してるね」
誰もが話さない中、ふんわりした雰囲気の男が私に話かけてきた。しかも、人当りの良さそうな笑みで。首に手を当てると、ピリッとした痛みが走った。首から手を離して掌を見てみると、指先に少しだけ血が付いている。これはアレだ、クナイを首に添えられた時についたんだ、きっと。
「ああっ! 触っちゃ駄目! 菌が入っちゃうでしょ!」 「……このくらいなら大丈夫です。お構いなく」 「駄目だってば。ほら、ジッとしてて」
大丈夫だと言ったら、何故かムスッとされてしまった。「ジッとして」と言われたけれど、毒でも塗られたら大変だ。
「本当に大丈夫ですから」 「〜〜っ小平太! 君が連れてきたんだろう!? 何とか言ってやって!」 「鈴奈! いさっくんに手当てしてもらったほうが良いぞ! 傷がすぐに治る!」
……いや、そこは問題じゃなくって。
「バカタレィ。その女は毒が塗られないか警戒してるんだろうが」 「へっ? そうなの?」
隈のついた男が、呆れながら七松君に言った。七松君はキョトンとしながら首を傾げる。妙に可愛い仕草だ。けど、あの隈のついた男がやると気持ち悪いことになるだろう。これ間違いない、絶対に。七松君はすぐに私に向き合い、「いさっくんなら大丈夫だ!」と言う。その言葉に、”いさっくん”と呼ばれた男を見ると、彼は私の視線に気づき、私にニコッと笑いかける。
「……でも、やっぱり傷のことはいいです。それより、此処はどこですか?」 「え? 知ってて来たんじゃないのかい?」 「逃げてたら迷ってしまっただけです」 「逃げる?」
あ、しまった。余計なことを言ってしまった。
「鈴奈、誰かに追われてたのか?」 「……ちょっと厄介な奴に」 「どうして追われてたんだ?」 「……理不尽な理由だよ。殺しを目撃しちゃったから追われてたの」
この言葉に嘘などない。私は妖に追われていたのだ。妖が妖を殺しているところを目撃してしまい、私に見られたことに気づいた相手は、私を殺そうとしてきた。当然、私は逃げる。だが、妖も必死のようで私を追ってきた。……そして、気づいたらあの森の中に居て、七松君に見つけられたのだ。
「……じゃあ、私が見つけてなかったら……」
七松君の言葉に、私は目を閉じて笑みを浮かべる。――殺されてたかもね。呟くように小さく言う。でも、此処にいても殺されるかもしれない。
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