捲土重来
準備万端。陣はちゃんと描いたし、七松君と食満君も得意の武器を持っている。後は私が妖を見つけて陣に誘い込むだけ、……なんだけど、だいぶ困ったことになってしまった。庭いっぱいに板を敷いて陣を描くということは、それだけでも目立ってしまうわけで。それはつまり、許可を得てもいないのに勝手なことをしてしまったことを咎められるわけで。
「何が妖だバカタレィ! そんな女にほだされやがって!」
そう、今みたいに。 隈が酷いことになっている男の人が、先程陣を見つけてしまってからずっと、こんな調子で怒鳴っている。彼の顔が怖いことと、怒鳴られることに慣れていないこともあって、口を挟むことが出来ない。しかし食満君は彼に対して喧嘩腰で反抗していて、七松君に至ってはケロッとした表情で「お前は頭が固いなあ」なんて呑気に言っている。本当二人共度胸あるね。凄い。
「妖などどうでもいい! 問題は、その女が好き勝手していることだ!」
ビシィ!、と効果音がつきそうな勢いで私を指さす隈の人。「何ィ!?」と食満君が犬のように吠えた時、 ――ゾクッ 嫌な気配を感じた。腕を見ると、先程は無かった鳥肌が立っていて、体に力が入る。近くに、私が狙っている妖が居る、それがすぐに分かった。辺りを見渡しても、私が見える範囲には居ない。ということは、私が探すしかないということだ。私の様子に、七松君が「どうした?」と聞いてきた。
「来たみたい」
私の言葉に、七松君と食満君の顔が強張る。
「行け、鈴奈。文次郎は私達で抑える」 「妖が来たらこの頭でっかちでも嫌でも分かるだろ」
七松君と食満君の言葉は、どうしてこうも頼もしいのか。「うん、ありがとう!」とお礼を言い、私は妖を見つけるべく走り出した。 とはいえ、忍術学園の敷地は広い。私の体力が続くか心配だが、今は急いで探すしかないことは分かっている。大川さんの為に、信じてくれた七松君と食満君の為に、私は妖を倒すしかないんだ。絶対に、壊しちゃいけないものがあるんだから。
***
校庭の木の影。そこに居た。 妖を殺し、目撃してしまった私を殺そうと追いかけてきた妖。走って乱れた息を整えながら、ジッと妖を見る。妖は木に隠れながら、誰かを狙っている様子だ。視線を辿ると、その先には私が夢で見た、殺された子達の内の一人、青色の忍装束を着た白い髪の男の子。今からあの子を殺すつもりなのか。
「ねえ!」
意識がこちらに向くように、声をかける。ドクンドクン、と心臓の音が早くなるのを感じる。でも後戻りは出来ない。妖が私に視線を向け、ばっちりと目が合った。そして、私があの時目撃してしまった人間だと分かったのか、素早い動きで私へと近寄ってきた。追いつかれる前に、七松君達が居る場所に向かって走り出す。走りながら後ろを見ると、確かに妖が私を追いかけていた。 このまま、追いつかれることなく戻らなければならない。
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