朱に交われば赤くなる


七松君が友人に頼んで薄い板をたくさん用意してくれた。その友人は”とめさぶろう”と言うらしいが、「ただでさえ予算ねえのにッ……」と嘆いていて、本当に貰って良いのかどうか困ったのだが、大事になるかもしれないから貰っておく。



「――完成っ」



貰った薄い板を庭一面に綺麗に並べ、その上に筆で妖を見ることが出来る魔法陣を板全部にいくつも描いて行く。一息つき、描き終えた魔法陣を見ると、なんだか異様な光景だ、と自分で思ってしまった。これでとりあえずは大丈夫。後は呪縛の魔法陣だけど……、あれは知らない一般人が入ったら危険かもしれない。



「なあ、これ何なんだ?」
「敵を仕留める為の罠だ」



”とめさぶろう”君の言葉に、七松君がそう返事をする。しかし彼にはピンときていないようで、不思議そうな顔で首を傾げた。”とめさぶろう”君は七松君と同じ最上級生らしいし、もしかしたら話しておいたほうが良いかもしれないが、七松君が許してくれるかどうか。



「ところでその女、」
「鈴奈か?」
「ああ。一応監視ということになっていたが、此処に居させて良いのか?」
「監視といっても、文次郎達が勝手に決めたことだろ?」



「私は関係ないもんねー」と頭の後ろで腕を組みながら言う七松君。……その会話、本人目の前で話して良いものなの……?



「まあ小平太が居るなら心配いらないが、文次郎達はどう思うだろうな」
「みんな鈴奈と話したことがないから」



”とめさぶろう”君が、私をじっと見る。思わず私も見つめ返していると、彼は「弱そうだな」と苦笑しながら言った。え、よ、弱っ……!? 軽くショックを受けていると、七松君まで「だろ?」と同意してしまった為ショックが大きくなった。そこまで堂々と言われるといっそ清々しい。もういいや、開き直ってしまったほうが気が楽。



「で、さっき敵がどうたらって言ってたが、どういうことなんだ? 深刻なら俺にも話せ」



彼の言葉に、七松君が私に視線を向けた。私も七松君に視線を向け、お互いの視線が交わる。確かに、”とめさぶろう”君はこの忍術学園の生徒で最上級生。忍術学園に関わることなら尚更知りたいのは当たり前だろう。コクン、と頷くと、七松君は「実は、」と妖怪についてを”とめさぶろう”君に説明し始めた。「かくかくしかじかでな」「そういうことか」なんて会話する二人に、私は動揺する。



「え、あの、伝わった、の……?」
「ああ、今ちゃんと説明したぞ」
「信じられんことだが、怪我人が出たのは本当だからな、俺も協力する」



嘘でしょ……、今の説明で……? 唖然とするものの、”とめさぶろう”君がたった今言った言葉を脳内で再生し、ハッとする。最初こそ警戒されていたものの、今こうやって協力してくれると言ってくれた”とめさぶろう”君は、余程七松君のことを信用しているのだと分かる。そうじゃなかったら、今頃「信じられない」の一点張りだっただろうから。ああ、もう本当、七松君が居なかったらどうなっていたことか。



「ありがとうっ」



嬉しくて、思わず身を乗り出してお礼を言えば、勢いが良すぎたのか「お、おう」と戸惑った返事が返ってきた。い、いけないいけない、あまり調子に乗ると引かれちゃう。でも「良かったな」と言う七松君の言葉に、嬉しさが再び溢れ出て「うんっ」と元気に頷いてしまった。へ、変な女だと思われちゃう……。



「改めて、俺は食満留三郎。お前は?」
「あ、比留木鈴奈です」



慌てて言うと、食満留三郎君は「良い名だな」と屈託のない笑顔で言ってくれた。再び「ありがとう」とお礼を言うと、私達の会話を聞き「よし、早速行動に移すぞ!」と七松君が言った。そして、私と食満君の肩に腕を回し、嬉しそうに笑う。その笑顔が太陽のようで、私もつられた笑みを浮かべる。ふと食満君も照れくさそうに笑みを浮かべていることに気づき、良い人達だなあ、と心の底から思った。



「妖相手か、腕が鳴るぜ」
「戦うのは私だぞ?」



ボキボキ、と指を鳴らす二人の姿は凄く頼もしいものだったが、少し恐怖を感じた。


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