鬼が出るか蛇が出るか


「七松君っ!」



下級生であろう三人の子達に囲まれている七松君を見つけた。慌てて名前を呼びながら駆け寄る。私に気付いた七松君が「あれ? 珍しいな、どうしたんだ?」と聞いてくるが、今はそれどころではない。



「怪我はない?」
「え? 無いけど?」



きょとんとした表情で言う七松君。どうやら本当に怪我は無いらしい。良かった……。ホッとすると、私の表情を見て察したのか、「現れたのか?」と七松君に聞かれる。”何が”と聞かなくても”妖が”とすぐに分かる。だって、つい昨日話したばかりの内容だったから。「うん」と頷くと、七松君は先程と打って変わって真剣な表情になった。



「でも、すぐにどっか行っちゃって……。夢で見たから、七松君のところじゃないかって思ったんだけど……」



でも、あの妖はこの場に居ない。どこに行ってしまったのか分からないけど、あの妖が何かを企んでいるのは事実。そして、いつかは誰かを殺すということもまた事実だろう。何か対策は……、と考えていると、白い髪の毛の男の子が「どういうことですか?」と七松君に聞いた。その言葉にどう答えたら良いのか分からないのか、七松君が困惑した表情で私を見る。



「七松君……、」



どうしよう、どうすれば良い? この子達を巻き込みたくない気持ちは分かるけど、今行動を起こさないと……。



「――うわああああっ!」



突然聞こえてきた悲鳴。声はそれほど遠くない場所から聞こえた。七松君に視線を向けると、彼も私に視線を向けた。「行こう!」と言う七松君の言葉に、二人で一斉に声のしたほうへと走り出す。




 ***




声のした方へ走っていると、人が集まっている場所へと着いた。誰もが焦った様子で、何かあったのは間違いない。七松君が輪の中に入って行く。しかし私は、非難されるのではないかと怖くなり、輪の中には入れなかった。そんな私を配慮してなのか、先程会ったばかりの子達が一緒に居てくれる。



「あの、大丈夫ですか? 顔色が良くないですが……」
「、うん、大丈夫、ありがとう」



ナルシストの子が気遣って聞いてくれる。口では「大丈夫」と言っていても、妖のせいだったら、と思うと気が気じゃない。悲鳴を上げた子は何があったのだろう。妖に攻撃を受けたのか、そうだとしたら死んではいないか。……死んでいたら、私の責任だ。もっと対策を練っておくべきだった。



「大丈夫だ。誰かに足を切られたらしいが、傷は浅い」



戻ってきた七松君がそう報告してくれた。よ、良かった……。ああ、いや、怪我してるんだから良くないか。でも、”誰か”ってことは、つまり……。



「鈴奈、どうする?」
「とりあえず、学園内を見て回った方が良いかも。まだ居るかもしれない」
「ああ、そうだな」



私の言葉に頷くと、七松君は同じ委員会の子達に「今から学園内の見回りを開始する。全員何かおかしなことがあったら報告してくれ」と言った。その言葉に彼等は「は、はい」と戸惑いながらも頷く。散らばる彼等を見て、七松君は私に視線を向ける。



「鈴奈は私と一緒に」
「うん」




 ***




しばらく歩いてみるものの、これといって何も変化は見られない。先程の一件以来何も起きなくて、それが逆に怖く感じる。知らず知らずの内に深くまで入られていたら、取返しのつかないことになる。ペラ、と大川さんから預かった本を読む。達筆な字で書かれていているものの、じっくり読めば理解できる。



「――……、これ……」
「どうした?」



私の言葉に、七松君が私の横から本を覗く。「これなんだけど……」と七松君に分かるように、ページのとある箇所を指さす。そこには「呪縛」と書かれた文字と、魔法陣の絵が描かれていた。この魔法陣に誘い込めば、その陣に入った妖の動きを止めることが出来るようだ。これなら、少しの間でも時間が稼げる。その内に、七松君が攻撃してくれれば……。



「これも使えそうだな」



そう言って七松君が指さしたのは、私が言った魔法陣の下に描かれている別の魔法陣だった。よく目を凝らして説明文を読むと、妖の姿を一般人にも見せることが出来る、と書かれているのが分かる。ということは、この魔法陣の上に立った妖は、七松君のような妖が見えない人にも妖の姿を見せることが出来る、ということか。



「私が囮になって二つ目の魔法陣に妖を誘い込んで、七松君が攻撃」
「失敗したら一つ目の魔法陣で動きを封じ、体勢を立て直す」



よし、勝機が見えてきた。


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