兄さんの個性強い友人達

「…………」
「…………」



も、物凄い気まずい雰囲気……。藤内と昼餉を食べている最中、兄さんが医務室へと訪れた。明らかに病人姿の私を見て眉間に皺を寄せ、私と一緒に食事をしている藤内を見て、更に眉間に皺を寄せた。そして、私の目の前に座ったかと思うと、目を瞑ったまま何も喋らない。



「……雫、今俺が何を考えているか分かるか?」
「……わ、分かんない、です、はい……」



正直に答えると、兄さんは目を開けた。そして、藤内を見る。いつも明るいはずの兄さんがこんな風になって、藤内は戸惑っているようで、兄さんに目を向けられた瞬間ビクッとしていた。



「お兄ちゃんの許可もなく男と付き合うなっつー話だっ!!!!!」



ビシィッ!!、と私に指先を指して言う兄さん。ええええ……、そっち……? 病気のことじゃないの……?



「しかも相手が藤内かよ!! 畜生、悪いところねぇじゃねぇか!!!」



一人で男泣きする兄さん。そんな兄さんに、私も藤内もドン引きだ。っていうか、そもそも私は藤内と付き合ってないし。兄さんの勘違いだし。ああああああ、でも、この状況じゃ訂正することできないじゃん……!!



「なんだよぉ……、昔は”お兄ちゃんと結婚する!!”って可愛いこと言ってたのによぉ……。お兄ちゃんそっちのけで彼氏いんじゃねぇかよぉ……」



ふと藤内を見ると、藤内は戸惑ったように兄さんを見ていた。私の視線に気づいたのか、藤内は私へと顔を向け、兄さんを指さして「どうするの?」と口パクで言ってきた。ど、どうするの、と言われても……。こういう時の兄さんは放っておいた方が良い。いずれ自分で立ち直るし。藤内へ苦笑を浮かべ、私は再び食事へと手を伸ばす。藤内は「えっ、放置!!?」とでもいうかのように驚いているが、これが良き対処法である。



「昔はずっとお兄ちゃんと一緒だったんじゃんかよぉ……」



めそめそしている兄さん。それを見て呆れていると、医務室の障子が開いた。顔を向けると、群青色の忍装束を着た忍たまの先輩が5人も居た。兄さんと同じ五年生だ。



「あ、やっと見つけた」
「おーい雪郷、昼餉食いに行くぞー」



そう言いながら、うどんのような髪の毛をした先輩と、ボサボサした痛んだ髪の毛の先輩が兄さんに近寄る。だが、兄さんはいまだにブツブツと不満を言っていて、先輩達が来たことに気づいていない。



「ん? ……ああ、邪魔して悪いな」



双子の片割れであろう反目の先輩が、私と藤内に顔を向けてそう詫びた。藤内は慌てて「い、いえ」と返事をする。いやいやいや、あの先輩、絶対勘違いしてるって。私と藤内が恋仲だと思ってるって。



「雪郷ー、行こうぜー。腹へったー」
「うるせぇ、ハチの分際で!! 俺は今絶望してるんだ!! 俺の妹に彼氏が出来たなんて認めないからなッ!!!!」
「ハチの分際ってなんだコラ!! つかお前の、妹……って……」



兄さんの言葉に、先輩方の視線が私に注いだ。え、何これ。やだ怖い。気にしないようにしていると、うどん毛の先輩と、双子の片割れであろうふわふわした雰囲気の先輩が、ビューンッ!!、と私の元に駆け付けた。そして、キラキラした表情で私の顔を見る。



「わぁー、よく見れば雪郷にそっくり!!」
「本当に雪郷に妹っていたんだな!! しかも可愛いじゃん!! 羨ましーっ!!」



え、ちょ、待って。何このテンションの差。困惑して何も言えないんですけど。



「何年生?」
「さ、三年生です……」
「あ、じゃあ二つ下だ。ってことは俺イケるじゃん」
「おい勘!! #NAME1##に手ぇ出したら許さねぇからな!!」
「えー、ケチー」



この先輩、ちょっとチャラi――ゲフンゲフン。



「良いなあ、藤内。こんなに可愛い彼女が居るなんて」
「え、えっと、彼女では……」
「え、違うの? ゃあ俺、狙おうかな」
「そろそろマジで殴るぞ、勘」



本人前で「狙おうかな」なんて言いますか、普通? っぱりこの先輩、チャラ――ゲフンゲフン。気が付けば、隣に別の気配がした。顔を向けてみると、綺麗な顔立ちをした先輩が、何かを見ながら少し涎を垂らしていた。ちょっと引きながら視線を辿ってみると、そこには杏仁豆腐があった。



「え、えっと、食べますか……?」
「っい、いや、俺は別に……」



遠慮しながらも、視線は杏仁豆腐へと注がれている。逆になんだか申し訳ない気がしてくる。私は杏仁豆腐を手に取る。「あの、私は食べなくても平気なので、どうぞ」と言いながら先輩に差し出す。すると、先輩はキラキラした嬉しそうな笑顔で「ありがとう!!」と言って杏仁豆腐を受け取った。そのことに、私も藤内も苦笑してしまう。



「あーもーっ!! 前等が居ると雫が汚れる!!」
「なんだとこの野郎。私達はいたって健全だ」
「そうだそうだ!! 達に謝れ!!」
「そういう三郎と勘が一番不健全だっつーの」



兄さんはそう言うと、「三郎」「勘」と呼ばれた二人の先輩の首根っこを持ち、医務室を出て行った。それを見た他の先輩達も、兄さん達を追いかけるように医務室を出て行く。驚くことに、美人な先輩は「杏仁豆腐、本当にありがとう!!」と、これ以上の幸せはないかのような素晴らしい笑顔でお礼を言って行った。



「……忍たまの先輩って、個性強い人達が多いね」
「……上には上がいるものさ」



そう言った藤内の目は、とても遠い目をしていた。

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