また新たに一人

「……はあ……」



ずっと医務室に居るのはつまらない。何もやることがないし、ずっと寝ていたら体がだるくなる。今は医務室には私しか居ないし、勝手に何かやったら怒られるかもしれない。せめて話し相手がほしい。なるべく気軽に話せる話し相手が。



――ゴーン



あ、鐘の音だ。ということは、授業が終わったってことか。何もすることがなく上半身を起こし、一人でゆらゆら揺れていると、医務室の障子が開いた。藤内かと思って開いた障子へと目を向けるとが、そこに藤内の姿はなかった。代わりにいたのは、昨日私を負ぶってくれた作兵衛さん。



「おう、暇そうだな」
「あ、ああ、うん」



お見舞いに来てくれたのだろうか。いやいや、昨日知り合ったばかりの人が来てくれるはずないか。



「今、手ぇ空いてるか?」
「え? まあ、空いてるけど……」
「じゃあ、ちょっと手当てしてくれないか? 今日の授業で手首を捻挫しちまったんだ」



そう言いながら、作兵衛さんは赤くなった手首を擦った。あ、結構赤くなってる。私は慌てて救急箱に手を伸ばす。だが、後少しというところで届かない。



「あー…、それくらいは俺が取るから」



作兵衛さんはそう言いながら救急箱を手に取り、私の隣に座った。少し恥ずかしくなりつつ「ありがとう」とお礼を言うと、作兵衛さんは「おう」と返事をした。作兵衛さん、なんつー男前。「えっと……、」と救急箱を開け、湿布と包帯を出す。作兵衛さんの手をとり、赤く腫れあがった箇所に湿布を張り、湿布が剥がれないように包帯を巻き、先端を裂いて結んだ。



「はい、終わり」
「ありがとな。俺、三年ろ組の富松作兵衛。お前は?」
「同じく三年の慶雲雫だよ」
「え、同じ三年生……!?」
「う、うん、そうだけど」



何故か驚かれてしまった。驚かれたことに驚く私。作兵衛s…、富松君が小さい声で「年下かと思った……」と言っている。……富松君、それ失礼だから。私ちょっと傷ついたよ……。



「そういえばこの前、雪郷先輩に妹がいる、っていう噂があったけど……、それお前のことだったんだな」
「あー、そうだね。私も兄さんも秘密にしてたわけじゃないんだけどね」
「でも、言われてみれば似てるよなあ」



そう言いながら、富松君が私の顔をジッと見る。…………い、異性に顔をジッと見られるのは苦手です……。目を逸らしたいけど、なんだか逸らし難い。



「そういえば、藤内来てねぇのか」
「藤内? 来てないけど?」
「おっかしいなァ。一緒に医務室行こうと思っては組の教室に行ったら、藤内が居なかったんだが……」



富松君の言葉に私は「へえ」と言葉を返す。その時、再び医務室の障子が開いた。富松君と一緒に開いた障子へと顔を向けると、そこには御膳を二つ持った藤内がいた。両手が塞がっている為、障子は足で開けたようだ。



「雫、昼餉持ってきた。一緒に食べよう」
「えっ!? それ私の分!!? そんな、無理して持ってこなくても良かったのに」
「良いの、俺が勝手にやってることなんだから」



藤内は笑みを浮かべながらそう言い、「はい」と私のそばに私の分の御膳を置いてくれた。しかし、藤内の食事と私の食事の種類が違った。私の昼餉は明らかに果物が多い。……善法寺先輩め、食事にまで手を回したか。



「作兵衛、怪我したの?」
「おう、捻挫だ。さすがに一人で手当てをするのは無理だったから、慶雲に手伝ってもらった」
「ふーん、雫って手当て出来るんだ」
「え、何それ凄い失礼」



眉間に皺を寄せて藤内を睨むと、藤内は「あはは」と笑うだけ。畜生、そんなに私は不器用に見えるのだろうか。



「さて、俺もお腹すいたし食堂行くかな」
「もう行くの?」
「実技の後だと、さすがに腹ペコだからな」



そう言い苦笑する富松君は立ち上がり、障子へと手をかけた。出て行くかと思ったのだが、立ち止まって私に振り向いた。



「あ、また来て良いか?」
「えっ、大歓迎!! ずっと暇だし!!」
「ははっ、そうか。なら、また来る」



かっこ良く笑みを浮かべながらそう言い、富松君は「じゃあな」と私と藤内に手を振りながら医務室を出て行った。



「……富松君、男気溢れるねえ」
「もしかして雫って作兵衛が好み?」
「それとこれとは話が別かな」



私はそう言い、手を合わせて「いただきます」と言った。おばちゃんが作る料理は全部美味しい。

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