長距離競争とお誘い

「そういえば明日、忍たまとの合同実習だよね」
「えっ!?」



昼休み。何の前触れもなく言い放った秋の言葉に、私は驚いた。私の反応に、秋は「また山本シナ先生の話、聞いてなかったの?」と苦笑した。「寝てた」と正直に話すと、呆れられてしまった。



「実習って何するの?」
「忍たま達が長距離競争するから、私達くのたまは救護をやるんだって」
「ってことは、今回は保健委員会も競争に参加するわけだ」
「そういうこと」



もしかして、今回の競争は学園長先生の突然の思い付きではないだろうか。前にも似たようなことがあったし。兄さんと藤内、怪我しなきゃ良いけど。……無理か。何が起こるか分からない競争だし。




 ***




長距離競争の当日となった。どうやら二人でペアを組み、罠を避けながらゴールを目指すというものらしい。良かった、くのたまで。こんな恐そうな競争やりたくないもん。



「雫、怪我人だって」
「えっ、早速!?」
「罠が絶えないらしいからねぇ」



そう苦笑して言いながら救急箱の準備をする秋。私はサイレンの役割で、頭にサイレンを付けなければならない。……本来のサイレンの音ではない変な音だけど、大丈夫だろうか。コレ絶対壊れてるよね。変な音、忍たま達絶対怖がるよ。でも他に残ってないし、これで行くしかないか。「行こっか」と言いながらニコッと笑う秋に癒されつつ、私は先を行く秋の後ろを追いかけた。相変わらず秋は女子力溢れる子だ。私が男だったら惚れていることだろう。



「――救護班です。怪我した人はどこですか?」



怪我人の元に辿り着いたのか、秋が誰かにそう声をかけた。その言葉に、私は俯かせていた顔を上げ、怪我人の顔を見る。「あ、こっちです、こっち」と手招きするのは藤内だった。「あ、藤内だ」と心の中で思いつつ、声をかけるかどうか迷う。藤内のペアであろう怪我人の子に目を向けると、赤がかった髪の1年生の子が居た。どうやら足首を捻ってしまったらしい。



「痛むけど、少し我慢してね」
「は、はい」



私の頭に付けているサイレンが怖いのか、一年生の子の顔は強張っていた。しかし、秋がニコッと微笑むと、安心した表情を見せる。……やっぱりこのサイレン、止めたほうが良いんじゃ……。「雫、」と藤内に呼ばれ、彼のほうに顔を向ける。「それ、なんか恐いね」と藤内が指さすのは、やはり私が頭に付けているサイレン。皆思うことは同じか。「だよね」と苦笑すると、藤内も苦笑した。



「怪我したの、藤内と同じ委員会の子?」
「うん。いきなり落とし穴に落ちちゃったんだ、俺も一緒に」
「え? じゃあ、藤内も怪我してるの?」
「いや、俺はギリギリ大丈夫」



藤内の言葉に、私はホッとする。



「これで大丈夫。立つ時とか歩く時には注意してね」
「はい、ありがとうございます」



どうやら手当てが終了したようだ。秋が手当てしたところを見ると、綺麗に包帯が巻かれていた。ひゃー、本当に手当て上手だなぁ。ふと手当てされた藤内の後輩へ目を向けると、秋のことを見て頬を赤く染めていた。……ありゃやられたな。だが秋は渡さない。



「始まっていきなり終わったけど、まあ良いか。優勝賞品は聞いてないけど、多分学園長先生のブロマイドだろうし。変に体力使わないだけマシだよ」
「うわー、普段真面目な藤内も学園長先生のブロマイドのことになるとそんなこと言うんだ」
「じゃあ雫は学園長先生のブロマイド欲しい?」
「いらない」
「あははっ!! 即答じゃん!!」



真顔&即答で答えたら、何故か笑われてしまった。や、でも、いらないものはいらないし。強制されてもいらないし。



「そうだ。この前仙蔵先輩に街の団子屋を薦められたんだ。一緒に行かない?」
「行きたい!! 最近団子って食べてないんだよね」
「そっか。良かった、断られるんじゃないかと思ったよ」
「奢ってくれるなら断る必要はないよ」



「にひひっ」と笑うと、藤内は「えー? 俺が奢るの?」と不満そうな表情をした。やばい、楽しい。藤内とは気軽に話せるし、話が弾む。こんなことなら、一年生の時に出会っておけば良かった。まあ、もう無理な話だけど。でも、もっと話したいな。

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