二人だけの約束

私の隣に藤内、目の前に秋、秋の隣に富松君、といった感じに座った。四人で手を合わせて「いただきます」と言い、夕餉を食べ始める。相変わらずビタミンCが多そうな料理達に、私は口角を引き攣らせる。早く普通の食事が食べれるようになりたい。



「……秋、お味噌汁少し頂戴」
「良いよ。雫のメニューにお味噌汁無いもんね」



私の我儘に、秋は笑みを浮かべながら許してくれる。ありがたやりがたや。秋から受け取った味噌汁を飲むと、懐かしい味が口の中に広がった。味噌汁最高。久しぶりに食べる味噌汁がこんなにも美味たるものだったとは。



「美味しい?」
「美味」
「ふふ、それは良かった」



少し貰った味噌汁を、「ありがとう」とお礼を言いながら秋へと返す。秋は「どういたしまして」と再び笑みを浮かべた。秋ってば凄く優しい良い子。



「作兵衛!!」
「食事中すまん!!」
「あれ? 七松小平太先輩に潮江文次郎先輩、どうしたんですか?」



突然現れた六年生の先輩二人。七松小平太先輩と潮江文次郎先輩というらしい。七松先輩はニカッと笑っているが、潮江先輩は焦ったような顔をしている。



「実は左門と三之助が見当たらなくてな」
「今から委員会だから探してるんだが、どこにも見当たらねぇんだ」



七松先輩と潮江先輩の言葉に、富松君は「あ、アイツ等ァ……!!」と額に青筋を浮かべている。ま、マジギレ……? 「俺も一緒に探します!!」と言った富松君は、夕餉をガガガガッと一気に口に流し込み、御膳を持って「ごちそうさま!!」と早口で良いながらおばちゃんに御膳を渡すと、七松先輩と潮江先輩と一緒に食堂を出て行ってしまった。



「ど、どうしたのかな……?」
「左門と三之助っていう、どこにいても迷子になる二人が居るんだ。その御守りをしてるのが作兵衛。一年の頃からずっと一緒だから、二人を探すときは作兵衛と探すことが多いんだ」
「なるほど」



どこにいても迷子になるって、ある意味凄い人達だなあ。富松君も大変だ。そのとき、秋が「あっ!!」と何かを思い出したように声をあげた。そして、富松君ほどではないが急いで食事を食べて行く。



「どうしたの?」
「男装の実習失敗しちゃったから、今から補習なの!! すっかり忘れてた!!」



へえ、補習か。秋は優秀だけど、男装だけは苦手なんだよね。女子力溢れる秋が男装しても、すぐに女だって見破られちゃうし。



「ごちそうさまでした。ごめんね、二人はゆっくりして良いから!」
「おー、補習がんば」
「ありがと!」



秋は慌てた様子でお膳を持ち、おばちゃんの元へと持っていく。残ってしまったのは、私と藤内の二人だけ。…………なんっか、気まずい。隣にいる藤内へと目を向けると、藤内は平然としながら食事を食べていた。えー、意識してるのって私だけ?



「あ、そうだ。ねえ藤内、」
「んー?」
「明日さ、約束の団子屋行こうよ」
「……えっ?」



いきなりの私の言葉に驚いたのか、藤内は間抜けな声を出して私を見た。つられて、私も藤内の顔を見る。藤内は口をポカーンと開けたまま、目をパチパチと何度も瞬きをした。私はその顔を見て、思わず笑ってしまう。



「なんつー間抜けな顔……!!」
「なっ……、笑わなくても良いじゃんか!!」
「にひひっ、ごめんごめん」



笑いながら、手を合わせて「ごめん」のポーズをする。藤内はそんな私を見て、恥ずかしそうに「もうっ」と言った。



「さっきの団子屋の話、もうちょっと後でも良いんじゃない?」
「え、なんで」
「だって、まだ歩けるようになったばっかりだろ? 街に行って悪化でもしたらどーすんの」



藤内の言葉に、私はムッとする。たしかに悪化するかもしれないけれど、私は早く藤内と団子屋に行きたいのだ。ずっと待ち続けてたから、そろそろ我慢の限界。私はジッと藤内を睨む。



「……そんなに行きたいの?」
「行きたい」
「……はあ、分かったよ」
「っ本当!!?」
「その代わり、団子屋に行くだけだからね。寄り道は絶対しない」
「うん!!」



団子屋に行けることが嬉しくて、私は「にひっ」と笑みを浮かべる。私の笑顔を見て、藤内もフッと微笑んだ。ああ、明日が楽しみで仕方ない。

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